教育福島0140号(1989年(H01)07月)-032page
2、幼児教育の問題点
今日の幼児を取り巻く環境の変化は著しく、社会情勢の進展とともに情報の氾濫、価値観の多様化、家庭教育機能の低下等、様々な問題が浮き彫りになってきている。その結果、
○基本的な生活習慣が身に付いていない子ども
○間接体験が多く、実体験をもたない子ども
○自発的に遊べない子ども
○物事に対する感動が失われている子ども
○体力が低下し、疲れ易い子どもこのような傾向の子どもが増加している。
3、幼稚園教育要領の改善のねらいと課題
幼稚園教育の現状に関して、これまでの幼稚園教育について基本的な共通理解がされていない現状を踏まえ、社会の変化に対応するために、次のような観点から幼稚園教育要領の改善が図られた。
ア、幼児期にふさわしい生活が展開されるようにする。
イ、遊びを通しての指導を中心としてねらいが総合的に達成されるようにする。
ウ、幼児一人一人の発達の特性を生かした指導を行うようにする。
このような観点から幼稚園教育の今日的課題を踏まえて幼稚園教育の在り方を見直し、指導の充実にさらに努力していく必要がある。
4、指導の充実
幼児の主体的な遊びを通して健全な自立を促し、集団生活の中で人間に対する信頼感、物事に対する興味・関心、運動能力の基礎となる力を培うためには、幼児期の発達の特性をとらえ、直接体験を充実させる指導法の工夫に努めていかなければならない。
(1) ねらいが総合的に達成されるようにする。
幼児が空箱で動く車を作って遊ぶ活動の中でも途中でヨーグルトが飲みたくなったり、やかんのような持つところがついた形の車になったり、友達とけんかをしたり、ひとつの遊びが多様に変化しながら展開されていく。具体的な指導の場面では、遊びの展開に応じて幼稚園教育のねらいが総合的に達成されるように、幼児の発達する姿を様々な側面からとらえ、ていねいに逐次指導を行っていく必要がある。
(2) 豊かな心情や感性、思考力などを育てる。
毎日の生活の流れの中で、幼児は自分の興味や関心に基づき、具体的、直接的な体験をしている。
道端に咲いているタンポポに子どもが目を奪われた時、教師もいっしょに感動を共有する態度が、幼児が感動をもってものを見る態度につながってくる。これらの経験が繰り返されることにより発達に必要な様々な力を獲得していく。
このように主体的にまわりの環境や自然との触れ合いを通して十分に活動が展開できるようにし、知的好奇心や探究心を満足させていくことが大切である。
(3) 幼児の主体生を培う。
初めて集団生活を経験する幼児にとって教師は最も信頼し、頼りになる存在である。その教師の働きかけや行動などから、幼児はいつも温かく見守られ受け入れられているという安定感がもてるようになる。
そのためには、教師は幼児の動きを認め、受け止め、一人一人の心の動きをつかむことが大切になる。たとえ教師が他のことにかかわっていて、今、自分に目が向けられなくても、信頼感を持って待つことができるようになる。
そのような信頼感が基盤となり、遊びを進めていこうとする主体的な態度が培われていく。
(4) 自発性を促す保育に努める。
幼稚園が幼児一人一人にとって楽しく充実したところであれば、自分のもっている可能性をその幼児なりに十分発揮できるようになる。
なかなか遊べない幼児がいるからと気をもんでいっしょうけんめい遊ばせようと遊具を与えたり、遊びに誘ったりするよりも、安心して遊び出せるような雰囲気をつくってやることが大切であり、自分から遊び出せるということが、自主性・自発性につながっていく。
このように人的、物的な両面から環境構成の在り方を見出していかなければならない。
幼児に「この活動をさせよう」「これを教えよう」と環境構成をして活動を与えていくのではなく、今、ここで育てたいものは何かという具体的なねらいを達成するために環境を構成し、活動が生み出されるようにしていくことである。
また、幼児が望ましい方向に向かって活動を選択したりしていけるように、教師が必要な援助をしていくことが大切である。そしてその援助の方法はことばかけである場合もあるし、必要な物をそっとそばに置いておく場合もある。
今後、幼稚園教育の充実を図るためには、具体的な保育の場を通し、具体的な場面を取りあげ、環境構成の工夫、教師の援助の在り方などについて、新教育要領の趣旨に沿って研究を深めていくことが大きな課題である。