教育福島0141号(1989年(H01)09月)-024page

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母親と連絡を取り合ったところ、今まで箸を使ったことがなくスプーンを使っていたということです。幼稚園に入ったので箸を無理に使わせようとしたためとわかりました。

そこで、あまり箸を必要としないおにぎりかパンにしてもらうよう母親に頼みましたが、それでも食べようとはせず、お弁当とのにらめっこが続きました。まわりの子も心配して、「M君、腹へったべ。食べつせよ。牛乳だけでも飲めばいいべ」などと言ってくれます。そのときはにこつとした笑顔が見られるのですが、口に運ぼうとしないのです。私が口元に持っていってやっても口をつぐんだままの状態が一か月も続きました。その間もいろいろやってみましたし、親との話し合いも何度となくしてきました。家での様子を聞くと、帰ってくるとすぐ弁当を広げて食べるのだから腹はへっているとの親のことばでした。今までは、ただ食べてくれればと必死でしたがそれではだめなことを知り、初めからやり直すことにしました。

「M君、今日は、卵焼きだけ食べっぺ」

「あとは残してもいいよ」

とスプーンで口元に運んでやると口を開くようになりました。「しめた、これでいこう」と思い、今日はこれとこれにしようと少しずつ増やしていきました。そのうち自分から進んでスプーンを持つようになり、まわりの子に、

「先生M君食べているよ。よかったねM君うまいべ」

とM君の肩をたたいて励まされたりすると一段と笑みがこぼれました。

こうして一人で食べるようになるまで二か月程かかりましたが、箸も使えるようになり、お弁当を楽しみに待つようになりました。

どんな活動の場でもそうですが、ちょっとしたきっかけがその子を大きく変えるものであることをそのとき考えさせられました。その大切なきっかけを作ってやることが教師の大事な役目であることを思いながら日々の保育に努めているところです。

(喜多方市立慶徳幼稚園教諭)

 

生徒の成長を思う

根本裕之

 

後の事務処理を終えるとこれで良かったのかなと三年間を反省して振り返る。

 

卒業生を送り出すと一か月くらいはほっとして過ごす。事後の事務処理を終えるとこれで良かったのかなと三年間を反省して振り返る。

昭和六十二年度の卒業生は、私が着任してすぐに担任となり、新鮮な気持ちで受け持った生徒たちである。四十二名の生徒は、明るく伸び伸びと育って卒業した。学習意欲に燃え、資格取得にも大きな成果をあげた。卒業後もしばらくの間は、初めての給料を手に見せに来た者、新車を買って見せに来た者、便りをよこす者、夜勤は辛い、資格を取りたい、友達が欲しいなど話題が絶えなかった。手数もかからずまとまりのある楽しいクラスであった。

いま担任している生徒たちは、入学前の状況、家庭状況、学習状況、生格、部活動の状況など実態が異なっているが、自己中心的な生格や行動の生徒が目立つ。学習や行動面で対照的である。

この二つのクラスの生徒の学校生活がどうしてこのように違うのか考えてみた。生活の原点は家庭生活であるが、蓄積された食生活にその原因の一端があるように思える。基本的な生活習慣は次のような食生活で身に付くと思われたのである。

いつ、だれと、どこで、なにを、どのくらい、どのように食べて生活しているかということである。このことが生徒の心身の要素を形づくっている。

食べ物は、薬石と同じである。健康にも不健康にもなる。物が豊かで、食べ物は、いつでもどこでも何でも買える。生徒の好みは、炭酸飲料も含めて甘美な物や揚げ物などに偏った食べ物を多く摂取するのが目につく。

栄養のバランスは、身体の発達や体質ばかりでなく、情緒の安定にも影響する。栄養の過不足や不均衡は、心神の不安、激しい感情の起伏につながると思われる。家庭から弁当を持って来ない生徒、甘いものが好きでジュースをよく飲む生徒の中にこういう状態になるものが多い。食生活は心身の発達に大きく影響を与えているように思う。

この考察は正しいかどうか判らないが、日々の学校生活の観察からの推測である。教員になりたてのころは見えなかったものが、年を重ねるにつれて、少しずつ生徒の本質的なものを促えられるようになった。食生活のみならず時代の価値観や生活環境で生徒が大きく影響されることに気付くようにもなってきた。

技術の発達は、便利さを生み日常生活も変えた。このような変化のなかで普遍性を求める教育の仕事は奥深く幾重にも広がっているような気がする。

私は、生徒に教えて、生徒の育つのをじっと待つことも、生徒を後押しすることも、生徒を引っ張ることも、教師の仕事であろうと思っている。

生徒たちの成長は私には、心の励みでもあり、楽しみでもある。

(県立平工業高等学校教諭)

 

 

 


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