教育福島0142号(1989年(H01)10月)-021page

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らと解釈してはやはりまずいわけでありましょう。日本の禅の開祖であります道元禅師も正法眼蔵の中で、この、「ただ」という世界の大切さをはっきりとお書きになっていらっしゃいます。

勝敗を争うチャンピオンスポーツの世界に身を置いたり、あるいはそれを援助するための研究を行ったりするような世界におりますと、ついついこうしたことが分からなくなってしまって、勝つためには何でもするような考え方が当り前になってしまうことがよくあります。この極端な例が、ドーピング、つまり、薬物を使用して自分の力を発揮させようというような、ルール違反の行為であります。

先ほどもお話ししましたように、私も小さい頃から、体操競技を中心に、いろいろなスポーツをやってまいりましたので、たしかに、いろんなふうに身体を動かすことができるようになりましたし、筋肉質の、いわゆるスポーツマン的になっていったわけであります。そして同時に、椎間板ヘルニア、あるいは手首の腱鞘炎、さらに何か所かの靱帯そして骨の損傷など、大変多くの怪我を経験いたしました。日々激しいトレーニングに励む選手の多くは、今でも私と同じような、いや私よりももっと深刻に、怪我と闘っているのではないかと思われます。現在は、スポーツ科学も長足の進歩を遂げ、こうしたスポーツ障害も、次第に減少する傾向にあるとはいえ、スポーツの持つ楽しさと、その裏にある障害との問題で悩んでいる人たちも大変多いわけであります。

さて、これまでに私は、スポーツの持つ不思議な魅力と、そしてやり過ぎからくるスポーツ障害についてお話ししてまいりました。何にいたしましても、面白さにまかせて、やり過ぎてしまうというのは、当然どこかでそのつけがまわってくるわけなのであります。

ところで、もう一つ私が体操競技を長いことやっておりまして大変不思議に思っておりますのが、あれほど一生懸命トレーニングに励んで身体を鍛えているはずなのに、実にあっけなく風邪をひいて寝込んだりすることがよくありました。これは今から考えますと別に不思議なことでも何でもなくて、風邪をひいて当り前なのですけれども、当時の私としましては、どうも釈然といたしませんでした。

みなさんは、スポーツマンというとああ爽やかだなあとか、健康的だなあとかいうようなイメージをお持ちになりませんでしょうか。ところが、先ほどお話しいたしました怪我の問題は別といたしましても、筋骨たくましい、いかにもスポーツマンタイプの人が、意外に、風邪やそのほかの病気で学校や会社を休んだりすることが、皆さんのまわりにはございませんでしょうか、それとは逆に、そんなに体格がいいわけでもないのに、病気一つせず、毎日の生活をはつらつと送っていらっしゃる方も、きっと何人か知っていらっしゃるのではないでしょうか。

好評だったヨーガの実技指導

好評だったヨーガの実技指導

 

現役時代にはあの仁王様のような身体をしているお相撲さんたちが、一般の方達に比べれば驚くほど短命なのは、もうよく知られたところです。また、若いときにスポーツ選手として活躍した人の中でも、現役選手を引退した後はいろいろな障害に悩まされているかつての花形プレイヤーが多いのもまた事実なのです。こうしたことについて少し立ち入ってお話しを続けたいと思っております。

実は、私自身もずいぶん体操の練習に励んで身体を鍛えたわりには、本当によく風邪をひきました。それも大事な試合があるといった頃になりますとずいぶん注意していたつもりなのに、風邪をひいて高い熱がでてしまうといったことがしょっちゅうありました。

今から考えますと、ああいうことをしていればいくら外側ばかり鍛えても、あるいは体操が上手になっても、病気がどんどん身体に入って来るのは当り前と思えるのですが、当時はどうしていいのか、本当に分かりませんでした。

病気になって当り前だったということが、今はわかる、と先ほど申しましたが、それは最近になって、と申しましても、もう五年ほどになりますが、私が身体であるとか、あるいは健康であるとかいうことについて、スポーツ選手だった頃とは全然違う考え方を持つようになったからであります。

それでは次に、ここ数年の間に私の健康観、あるいは人生観といったものが、どんなふうに変わっていったのかお話いたしましょう。それは私達の身体を動かしております三つの働きについてかなりはっきりと自覚できるようになったということであります。三つと申しますのは、一番目は筋肉や骨、靱帯などからなる、まあいわゆる体格がいいとか悪いとか言われる、もっとも外側の器官。二番目は、心臓・循環器系やその他の内臓諸器官、そして三番目は、それら諸器官をコントロールする神経系のことであります。

そうしたことから振り返って考えてみますと、私がスポーツを通じて鍛えてきたのは、一番目の部分、つまり筋

 

 

 


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