教育福島0142号(1989年(H01)10月)-032page

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たのは、全日本学生選手権に出場する福島大学の学生を連れて、京都に行っていたときのことでございます。京都のとある本屋で、先生のお書きになられた「ヨーガ禅道話」という本を手に取ってペラペラとめくっているうちに、これはたいへんな人が書いた本だということが直感され、すぐに買い求めて、一気に読み通したのであります。読み終わるやいなやすぐに電話に飛びついて、先生にお目にかかれるお許しをいただいたのですから、なんともずうずうしい話であります。

翌日、先生のお宅の応接間に通されソファーに腰をおろすやいなや、先生.は「あんた体操をやっとったというけど、ほんまにええ身体しとるわなあ、でも風邪ひいたりせえへんか。」と言われたのであります。さらに、先生は、「あんた、人間がなんで病気になると思う。例えば、インフルエンザのビールスが町中にうようよしているからといって、みんながみんなインフルエンザになるわけやないやろう。どの病気かてそうやで、おなじように生活している人でも癌になる人もおればならん人もおる。もちろん病気になるならんは複雑な原因があるんやけど、一番大切なんはその人が病気に対する抵抗力を持っているか、つまり免疫性というか、自然治癒力というか一まあ東洋ではこれを自然良能と言うて、昔つから大切にしとったんやが、それをもっとるかどうかということなんや。わしはヨーガというのは、この自然治癒力を高める働きをすると思うとるんや。

ところで白石さん、あんたエイズという恐ろしい病気の事を聞いた事があるやろう。あれは後天性免疫不全症候群言うて、われわれの体を病気から守ってくれとる大切な免疫性を根こそぎ奪ってしまうという病気や。これは恐ろしいことやで。まあ、ヨーガというのはこのエイズとまったく正反対の働きをすると思うたら間違いないやろな」

私は、こうした先生のお言葉を聴いて、ほんとうにびっくりしてしまいました。さらに申し添えておくならば、このときにはまだ日本にはエイズ患者は一人もいない時期で、今のように大きな社会問題として騒がれていたわけではなかったのであります。

 

ヨーガ行法の八段階

ヨーガにおける人間観五つの鞘

ヨーガにおける人間観五つの鞘

れがもっている自然治癒力というものが活性化されてくるというのであります。

先生は、ヨーガの体操(アーサナ)を行っていくにあたって四つの大切な原則を立てられております。その四つとは、まず一番目には、動作をきわめてゆっくりと行い、ポーズを一定時間保つこと。二番目には、動作を呼吸に合わせて行うこと。三番目に、動作に意識を集中させ、常に自分の身体を観察すること。そして四番目には、緊張とリラックスの交替に心を配り、特にリラックスを大切にすることの四つであります。一つ一つの動作を、この原則に則って行いますと、そこに呼吸、運動、そして精神集中といった要素がすべてに含まれていることに気が付くわけであります。こうした運動をたとえ一日十五分でも、毎日ていねいに続けておりますと、次第に身体が、続いて呼吸が、そして心までもが整い、本来われわれがもっている自然治癒力というものが活性化されてくるというのであります。

さて、心ということでもう一つ申し上げれば、ヨーガをまじめに続けていると、怒るということがだんだん少なくなる、と先生は言われました。怒りという感情が私たちのからだに甚だ悪い影響を及ぼし、しかもそれが抑えがたいものだということは、どなたも感じておられることと思いますが、先生の言われるには、怒ることを我慢するというのではなく、ヨーガをやっているうちにだんだん怒る気がしなくなるというのであります。

スパゲティのような生命維持のためのチューブにまとわりつかれて、かろうじて生命を長らえている人々(スパゲッティ症候群)、すなわち生きてはいても、もはや社会的存在の人間としては死んでいるも同然の人たちが、増加の一途をたどるなかで、先生はまさに「死ぬまでいきいきと生きられた」のであります。

さてそれでは最後に、ヨーガの修業体系について簡単にご説明申し上げ、今日の私のお話しのまとめをさせていただきたいと思います。

お手元に配付いたしました資料の図(上図)をごらん下さい。ピラミッド型に描いておりますのが、「ヨーガの八部門」と呼ばれておりますヨーガの修業体系です。一番目の「禁戒」は、倫理的に行ってはならないこと。二番目の「勧戒」は、社会生活で勧められ


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