教育福島0143号(1989年(H01)11月)-045page

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れている子どもの特徴は、「知的には普通かそれ以上である」「集中力が長続きしない事が多い」「特定な能力に落ち込みがみられる」「周りの刺激に反応しやすい」といったものです。具体例を挙げれば、算数、理科といった教科の理解は普通なのに、国語での「読む」「書く」といった特定の領域に落ち込みがみられるといった子どもです。また、計算能力、運動能力面での障害になって現れることもあります。

現在、この「診断名」については学校現場を含め、一般にその実体がよく知られていないのが現状です。したがって「学習障害のある子」は、教師からも友だちからも理解されにくく、不当な扱いを受けることがあります。教師や親は、このような子どもを目の前にし「ふざけている」「努力がたりない」等といった見方をしがちですが、脳になんらかの障害があるために、本人は、やりたくてもできない状態なのです。もし教師や親がこの障害について少しでも理解していれば、子どもに対する見方や接し方は変わってくるでしょう。

このように十分に理解されないまま使われている「診断名」は他にも多いのではないかと思われます。

2 子どもの指導の場でその障害について理解しておかないと健康や生命にかかわるような例もあります。

「二分脊椎」を例にとってみましょう。これを医学的に説明すると、次のようになります。胎生初期になんらかの原因で脊椎の形成が不完全となり、脊椎骨の外に脊髄や脊髄膜がはみ出してしまう一種のヘルニアです。

この病気は、脊椎にヘルニアの起こった部位より下の神経がまひするため、運動障害、感覚障害といった障害が出てきます。

したがって日常生活で配慮しなければならない事は、やけど、外傷の予防の他に排尿指導が重要になります。排尿感覚がないために尿路周辺が不潔になりやすく、そこから細菌が入りやすくなるからです。そのためひどい場合は、腎臓の障害を起こしかねません。

これに類するものは、肢体不自由児の教育や病弱・虚弱の教育では数多く考えられることです。これは医学的な理解が不可欠な例です。

 

五、「診断名」使用上の問題点

「診断名」を取り扱うときに気を付けなければならないものとして「誤解」「偏見」の問題があります。例えば次のようなこともその一つではないかと思われます。

軽度のちえ遅れの子どもでは、社会的適応になんら問題がないといった場合は、覚えるまで時間がかかることはみられるものの、周囲から特別目立たないのが一般的です。ところがこのような子どもでも、一度「精神遅滞」と診断されてしまうと次のようなことが起こります。

1)地域や友達から白い目で見られる。

2)教師や周囲の大人が発達や教育に一定の限度があると教育をあきらめしまう。

3)劣等感を持つようになる。

4)就職、結婚といったことで不利益をこうむる。などといった弊害が起こりやすいものです。

このように考えると「診断名」の取り扱いは、慎重でなければならないし、また「診断名」に振り回されることなしに、子ども自身をしっかりと見るように心がける事が大切だと思います。また次のようなことに注意することも必要です。「幼児自閉症」を例にとって考えてみましょう。自閉症児特有の行動は、一般には理解できないことが多いものです。

ある自閉症児は、毎朝学校に登校すると、まず体育館に行きトランポリンで十分ぐらい遊んでから、教室に行くのを日課としています。担任としては、

まず教室に行って着替えてからトランポリンをさせたいと考え、あれこれ指導を試みましたが、本人は、絶対に自分の行動パターンを変えようとしません。このような「こだわり」を、教師が無理やり変えようとすると、急に大声をあげて逃げ回ったり、自分を叩いたり等の「パニック」状態に陥ったりします。

また、自閉症児は「ことば」を意思の伝達のためにうまく使えないといった言語コミュニケーションの障害があることが多いので、本人の心理状態が周りの人にわかりにくいこともあります。

このように子どもの行動を理解できないのは、担当者の理解不足によることが多いのですが、不可解な行動の起こる理由づけとして「幼児自閉症」だからといった「診断名」を挙げることもみられます。

 

六、おわりに

子どもを理解するために「診断名」が重要な役割を果たしている反面「診断名」を十分理解しなかったり、誤った使い方をしているために、子どもの教育を歪めてしまう場合があります。「診断名」をじょうずに使うか、反対に、それに振り回されるかは全て受け取り手である、我々の問題だと思います。もう一度「診断名」の持つ意義を問い直してみたいものです。その上で障害のある子どもを「個性豊かな人間」としてとらえ、常に子どもを第一に考え、子どもに合わせた指導をし、彼らの望ましい発達に手を差し伸べて行きたいものだと思います。

 

 

 

 

 


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