教育福島0144号(1990年(H02)01月)-026page

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オーストラリアを訪問したときに聞いたことを思い出した。オーストラリアでは、小さい時から、できるだけ家庭の仕事の手伝いをさせるそうである。子どもが一日も早く一人立ちし、社会に出て活躍することを願うのは、どこの国の親も同じであろう。しかし、この国では自立した時に困らないように、年齢に応じた仕事を手伝わせるのだそうである。さらに、アルバイトもやらせ、お金を得ることの大変なことをも体験させるということであった。

また、昨年の十一月には、天童市のある小学校での公開授業を参観する機会があった。「秋まつりをしよう」という一年生の生活科の授業であった。あいにくの雨模様で、体育館で授業が行われた。そこでは、いくつかのグループに分かれた子どもたちが、段ボールで作った神輿に、仲良く飾付けをしているところであった。それぞれのグループを見て歩いているうちに、一人の男の子が目についた。その子は、缶切りを使って、一生縣命ジュースの空缶のふたを切り取っていた。ところが、缶切りの使い方を知らないらしく、思うように切り込みを進めることができないでいた。向かい側に屈んで見ていた私は、「缶切りはこのように…」と話しかけてやろうか、どうしょうかと迷っているうちに、ふたが切り離された。続けて見ていると、今度は、その缶の底ぶたに、きりで穴を開けようとし始めた。両手できりを立てて、力まかせに押し込んでいるが、なかなか開かない。「手伝って」と言って、隣の男の子と一緒にきりを押し込み始めたが、それでも開かない。そうしているうちに、そのきりが滑って、手助けをしていた子の手に刺さってしまった。その子は、すぐに、その傷口を口に当ててなめ始めたが、さほどの出血ではなかったので、見ていた私もほっとした。この様子を見ていて深い感動を覚えた。わずか小学校の一年生で、缶切りを使ってふたを開けたり、きりでアルミ缶に穴を開けようとしたりしているのである。

頭で知ることと、体で知ることとは違うのである。いくら上手なリンゴの皮のむき方を知識として持っていても、包了を使って皮をむく一体験には及ばないのである。

オーストラリアと天童市での見聞は、体験を通して学ぶことの大切さを教えてくれた貴重なものであった。(船引町立移中学校教頭)

 

信頼関係の大切さ

−初任研、ボランティア活動に参加して−

小野  聡

小野  聡

 

祖父母を早く亡くし、両親とも元気な私にとって、老人ホームは遠い存在でした。お年寄りと接する機会も無く育った私は、どのような顔で、何を話し、どのように手を差し伸べればよいのか、など不安を覚えながら、特別養護老人ホーム「陽光園」の玄関を入りました。

開講式に引き続き、「老人介護の心得」のお話をお聞きしたのですが、私の不安は、解消されるどころか、むしろ募っていったのです。それは、痴呆症の老人、徘徊癖の老人が数人入所していると聞いた時、学生時代にみた痴呆症の老人を扱った映画「花いちもんめ」の千秋実の迫真の演技が脳裏をよぎったからです。

しかし、「こんにちは」と部屋に入っていくと、そこには、おじいちゃんおばあちゃんの静かな笑顔がありました。その後、御飯を食べるのを手伝ったり吸い口に水を入れたりしているうちに自然に話ができるようになり、話し掛けてもくれたのです。自分の身の上話をして、逆に励ましてくれたおじいちゃんもいました。歌を歌ってくれるおばあちゃんもいました。実際にお年寄りたちと接してみて、実習前の不安は杞憂に終ったのです。

介助実習をしていて、初めのうち、寮夫、寮母の方の接し方に優しさがないような感じを受けました。何か、機械的な動きに見えたのです。しかし、よく観察してみると、一人一人に対する接し方が分かっていて、信頼関係ができているからできる行為だということが理解できました。手荒に見える介助に老人の方も不満があるようには見えませんでしたし、むしろ、安心して身を任せているようでした。生徒との接し方においても、信頼関係なしに理由も聞かずに叱責しても逆効果になるケースが多いといわれます。四月当初から、私も生徒とのラポート作りが第一で、そして、最大の課題として取り組んできたのですが、今回の体験を通して、改めてそのことの大切さを痛感しました。

寮母さんからお話頂いた介助の心得の中で強く印象に残ったことは、徘徊癖のある老人への接し方についてでした。「老人がなにを考えているのか。余裕をもって接することが大切であり、説得するのではなく、納得させるのだ。話すときには、自信をもって、大きな声で、分かりやすく、端的に」というお話は、すべて中学生への接し方にも共通することであり、私もこれからの教師生活の中に生かしていきたいと考えました。

この貴重な体験を通して、私自身知り得たことを、これからの高齢化社会

 

 

 


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