教育福島0149号(1990年(H02)09月)-032page

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獲得ということになります。一歳代の子どもには、一歳代の子どもの自立的な生活があり、二歳代の子どもには、二歳代の子どもの自立的な生活があります。子どもがより自立的に生活できるようになるということは、自分の力で生活できる部分がより多くなるということです。

自分の判断で、自分の行動を統制するという意味で「自律」ということばを使う場合がありますが、ここでは、自律の概念も含めて、「自立」を考えていくことにします。

 

(二) 社会参加・自立

本稿の冒頭で述べたとおり、「盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」の諮問文と答申文とを見比べると、諮問文で「社会自立」としていた部分が、答申文ではすべて「社会参加・自立」となっており、これは、養護学校教育の義務制施行後児童生徒の障害が重度・重複化、多様化したことを考慮したものと考えられます。したがって、「自立」について考えていく場合、どうしても前項で述べたようなとらえ方が必要となります。

そうした観点から、心身障害児一人一人の立場に立った「社会参加・自立」を考えれば、次のようになるでしょう。

心身に障害のある者が、自己の障害の現状を認め、障害の状態等に応じて援助を必要とする部分は他者に支えられながら、自立への自己努力の中でその人らしい生活をすること

あるいは、こうした考え方で具体化し、個々の事情に合わせて適用しようとすると、いろいろな立場からのとらえ方と思惑が入り乱れることが予想されます。ともあれ児童生徒が、自分の生活の拡張のために、自主的、自発的に環境にかかわり、課題解決に向かって活発に活動を展開することができるようにするためには、次の点についてチェックしてみる必要があります。

1) まず、児童生徒があることを選択し、実行することを最大限に尊重するということが守られているか

2) その上で、児童生徒一人一人の活動が主体的なものであったかどうか

3) 更に、発達という観点から見て、主体性が連続して育つような配慮と援助が適切になされていたかどうか

こうした観点からのチェックを忘れると、人間一般をくくった形の自立論に陥り、個々のプロセスがなおざりにされ、「やらせればできる」主義がはびこってみたり、逆に、「どうせやらせても誰にも頼らず、立派にやれるようになるわけでもないし」と、最初から努力を放棄する考えに支配されたりするかのいずれかになりがちです。

いずれの立場も、世話する大人の側の論理が支配しており、児童生徒の立場は無視されたものであることは明らかです。大切なことは、幼児期から環境に働きかける活動の芽を育て、身辺のこと、社会に生きること、仕事のこと等を踏まえて、自立に向ってその人なりの精一杯の努力目標を設定し、過不足のない援助をすることです。これが、心身障害児にとって、特殊教育諸学校を必要とする理由でもあります。

 

五、人と交わる生活の大切さ

人は、障害のあるなしにかかわらず働きながら人と交わる生活を通して、心を満たし、生きる喜びを味わい、成長します。その点、第二節で述べたとおり、働くことに困難性のある障害者であっても例外でないことが理解いただけと思います。そのため、特殊教育諸学校の教育では、障害の実態等に応じて、働きながら人と交わる生活のできる力を育て、働きながら人と交わる生活を実現するための実習の場等を適切に用意することが必要となります。

 

(一) 交流教育

学校同士の交流としては、例えば近隣の学校と学校行事や自然教室などを合同で行ったり、…特殊教育諸学校との交流を図ったりすることなどが考えられる。これらの活動を通じ、学校全体が活性化するとともに、児童が幅広い体験を得、視野を広げることにより、豊かな人間形成を図っていくことが期待される。

(「小学校指導書教育課程一般編」より)

心身障害児と心身に障害のない児童生徒とが活動を共にし、いわゆる交流を行うことは、すべての児童生徒にとって人間形成、社会適応、学習活動などいろいろの面で、自分を高める意義深いものと考えられます。

つまり、心身障害児にとっては、経験を広め、社会性を養い、好ましい人間関係を育てる絶好の機会となります。また、障害のない児童生徒にとっては、自分たちと障害児との間に多くの共通点を見出し、仲間意識を育むとか、障害児の障害を克服する意欲に触れて自分の生活の姿勢や学習の態度を反省したり、障害児に対してはもとより、幼い子どもやお年寄りを含めて、自分たちの地域社会を構成しているすべての仲間に対して、思いやりの気持ちを育てたりするきっかりにもなります。

これは、とりもなおさず社会福祉の基盤であり、今後ますます高齢化社会になっていく状況を考えれば、児童生徒に福祉の心を育むという面からも、非常に大切になってきます。

(二) 職場実習(現場実習)

職場実習は、職業教育の内容の一つとして教育課程の中に位置づけて実施されます。ねらいは、二つあります。

 

 

 


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