教育福島0150号(1990年(H02)10月)-026page

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と、ある先輩の先生に話した。

そのとき、その先生から、

「なるほど、それでは、小学生の子どもを持つ親の気持ちはどうですか。わかりますか」

と尋ねられた。どきっとした。答えられなかった。

さらにその先生から、こう教えていただいた。

「あなたの娘さんが小学生になったとき、わかるようになるでしょう。今は、まだ経験してないからよくわからないと思います。でも、経験してないからこそ、何とか先取りして考えることが大切ですよね」

なるほどと思った。

娘もやがては、小学生になる。そのとき、自分は何を考えるだろうか。友だちと仲良くしているかとか、勉強はどうだろうかとか、担任の先生との関係を心配したりするに違いない。

もし、娘のもの覚えが悪かったらどうしよう。根気よく、ていねいに教えてもらえたらよいだろうな。

そうやって先取りして考えていくと親の気持ちも見当がつくし、今自分がどんな指導をすればよいかもわかる。

教師として、立場の違う親の願いや気持ちを先取りしていくのは、容易ではないだろう。しかし、それによって子どもの気持ちもわかってやれるような教師になれるのでないか。

娘は、笑ったり泣いたりしながら、一日一日確実に成長している。私も教師として、そのように成長したい。

(鮫川村立鮫川小学校教諭)

 

ソフトとの出会い

平野茂穂

 

い。それがどうしたことか、ソフトボール部の顧問を引き受けることになった。

 

「先生、ノックできますか」部の顧問が決まった直後の部員の言葉である。県大会優勝を目指すチームにとって、監督が誰になるのかは最も関心のあることだし、心配ごとだったらしい。私はどちらかという運動音痴であり、運動部を引っ張ってきた体験に乏しく、ソフトボールのルールは全く知らない。それがどうしたことか、ソフトボール部の顧問を引き受けることになった。

練習の初日「先生、ノックをお願いします」主将が職員室に迎えに来た。どうしようかと思いながら重い腰をあげ、グランドに出ると、基礎トレーニングを終えた部員が配置についていた。皆無言である。ノックバットを握りホームベース付近まで行くと、期せずして拍手が起こった。そして、「お願いします」元気な声がグランドに響いた。こうして部員との出会いが始まった。

ノックを受ける選手の姿は実に生き生きとしている。どんな打球に対しても真剣である。素人の私が始めから上手にできる訳がない。しかし、あのおとなしいA子もB子も積極的に身体を動かし、ボールに食らいつく。捕球に失敗すると周りの者が「ファイト」と声をかけてやる。下級生がうまくできないと、三年生が「○○さんがんばれ」と励ましてくれる。実に雰囲気がよい。補助をしている三年生が、小さな声で「先生、もう少し右の方へボールを打ってください」「もう少し強いゴロにしてください」と選手の動きに応じてアドバイスを送ってくれる。送球がそれてボールがグランドを転がる。すかさず「○○さん、もっと速くカバーに入って」と今度は大きな声で教えてやる。皆役割が決まっていて、タイミングよく声を掛け合い、確かめ合いながら練習に取り組んでいる。

初練習が終わった後、主将のH子が、「先生ありがとうございました」と丁寧にあいさつをし、さらにほほえみながら小さな声で「先生、身体には十分注意してくださいよ」とセリフを残し、グランドの整地に取りかかった。部活動をどうしようかと心配していた私の気持ちは、一ぺんに吹き飛んでしまった。自分なりにできることを、生徒と共に本気でやろうとする意識になっていた。目標は、県大会優勝である。

今日もまた、グランドには生徒の元気な掛け声が響いている。県大会では緒戦を突破できなかったが、また優勝を目標に新しいスタートを切った。夕方五時過ぎ、新しく主将になったS子が「先生ノックをお願いします」と呼びに来た。主将としての意気込みが伝わってくる。その時、どうしたことか、前の主将であったH子が、県大会から帰ってきた時に言った言葉が脳裏に浮かんだ。「先生、負けてしまってすみません。本当にありがとうございました。今度は、できるだけお手伝いをさせてください」

部活動の指導を通して、教えられる

 

 

 


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