教育福島0150号(1990年(H02)10月)-044page

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また船で家に帰ります。寝室には温かい夕飯が待っていました。という話です。

 

きかん坊のマックスは狼のぬいぐるみを着て大騒ぎ、母さんに叱られ夕飯抜きで寝室に放り込まれます。寝室はいつの間にか森になりマックスは波が運んだ船に乗り怪獣の島へ渡り怪獣ならしの魔法を使い、王様になります。怪獣たちにさんざん怪獣踊りをさせ疲れ果てた後は夕食抜きで眠らせてしまいます。あたりが静かになると寂しくなり、また船で家に帰ります。寝室には温かい夕飯が待っていました。という話です。

元気のいい寂しがり屋の男の子が誰にも叱られない空想の世界で思いきり遊ぶ姿が生き生きと描かれています。黄色いギョロ目の怪獣達は皆ユーモラスで個性的で、マックスが怪獣にしてしまった大人達のようです。気分が高まるにつれて画面が拡大されて行き大騒動の絶頂は見開きいっぱいの迫力ある絵だけになり言葉が消えて行きます。面白くて大らかで優しい見事な絵本です。

 

一九六三年、この本が出版されたとき「子供が怖がる」「寝室に閉じ込めるのはよくない」「食事抜きはけしからん」「品がない」と大人達の間では論争が起こりました。しかし子ども達には大好評で翌年にはアメリカ国内の絵本賞コルディコット賞が与えられました。受賞の挨拶で作者のセンダックは「怪獣達のいるところへいくにはいくらかかりますか、あんまり高くなかったら今度の夏休みに妹と行きたいと思います。すぐにお返事下さい」という男の子からの手紙がとても嬉しかったと述べています。

 

センダックは一九二八年ニューヨークのブルックリンで生まれました。子どもの頃は病弱でミッキーマウスと父親が語ってくれる空想の話が大好きでした。一九五二年、ルースクラウスの文に絵を描いた絵本「あなはほるものおっこちるとこ」を出版します。たちまち子ども達の心を捕え絵本画家の第一人者となり、続いて「うちがいっけんあったとさ」「くつがあったらどうするの」「おふろばをそらいろにぬりたいな」を発表します。一九五六年、世間からしり込みしている子ども達へ贈るとして、文と絵の両方を描いた「ケニーのまど」を創作します。次に「とおいところへいきたいな」「ロジーちゃんのひみつ」「アメリカワニですこんにちは」他で内容・形・色使い・大きさ装丁等自由で豊かな発想のもとに制作し絵本作家の地位を不動のものにします。そして「かいじゅうたちのいるところ」「ヘクタープロテクター」「まよなかのだいどころ」を発表し、一九七〇年子どもの本のノーベル賞とも言うべき国際アンデルセン賞に選ばれました。一九八三年には三年に一度アメリカの児童文学者に与えられるローラインガルスワイルダー賞も受賞しました。

彼は今、最も気になる絵本作家として注目を浴びており、更に複雑になる現代社会の中で、子どもの心をどのように開放し楽しませ満たしてくれるのか、今後の活躍が期待されます。「あなはほるもの…」とが出版されてから三十八年、「かいじゅうたちの…」は二十七年を経ていますが、今なお世界中の子ども達に新鮮な感動を与え続け人気を集めております。現在日本語に訳され手に入る作品は三十七冊あり、それぞれが陽気にあるいは愉快にそして優しくまた静かにファンタジーの世界へ誘います。

 

図書館の児童室では今日も「おばけの本はどこですか」「きょうりゅうの本もっとないの」「かいじゅうの本ある?」とかわいい声がしています。扉を開くと変わった生きものが待っていて想像の世界に連れて行ってくれるからでしょうね。この心と時間を大切に育てたいといつも思います。お近くの図書館をのぞいてみて下さい。きらきら輝く瞳で絵本を捜す子どもの姿に出会います。まさにかいじゅうたちのいるところ。よろしかったらページを開いてみてください。本当の魅力を持った本は大人の心も満たしてくれます。たくさんの絵本が感動を秘めて待っています。そして子ども達の身近なところに読書の環境を作っていくことに皆様の御理解とお力添えをお願いしたいと思います。

 

 

 


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