教育福島0151号(1990年(H02)11月)-035page
埋蔵文化財の現況
一、重要遺跡基本資料整備事業
遺跡周知事業で確認された遺跡のなかから重要遺跡をとりあげ、保護のための基本的な資料を整備する。
本年度は、当事業六か年計画の最終年度にあたっており、補足調査として会津地区を対象に五遺跡の立地・発掘 調査等の成果を示す航空写真や記録を収集し、整備しているところである。
また、六年間の成果を集大成するための報告書を作成することとしている。
二、文化財調査(県内貝塚分布調査)
貝塚は、縄文時代等の社会や文化を知る上で極めて重要な遺跡であるが、近年の開発行為の進展は、その保存に重大な影響を及ぼしている。本調査は、これらの悉皆調査と既調査資料の収集を行い、今後の保護策を講じるための基礎的資料を整備しようとするものである。
平成元年度は、これらの所在調査を実施し五十三か所の貝塚を確認したが、今年度は、この中から学術的に重要なものや早急に保護策を講ずべきものを選び重点的に調査を進めている。さらに、これからの調査結果を報告としてとりまとめるものである。
掘立柱建物跡群の検出状況(砂畑遺跡)
三、発掘技術の研修
県教育委員会では、埋蔵文化財の発掘調査体制の強化と保護の徹底を図るため、調査員の専門的知識と技術の向上に努め、多種の研修会への積極的な参加を呼びかけている。
本年度は、奈良国立文化財研究所埋蔵文化財センター主催の次の研修会に参加している。
一般課程 一名、中近世窯器調査課程 二名、環境考古課程 二名、埋蔵文化財基礎課程 一名、なお、水田遺跡調査課程 一名、石器調査課程 二名の参加を予定している。
また、県教育委員会主催の第十八回発掘技術者講習会は、天栄村を会場に二十九名の受講者があり、考古学に関する基本的な知識と技術について熱心に受講した。
四、開発に伴う発掘調査
本年度、県教育委員会で実施している分布調査は、国営農地開発事業の母畑地区・矢吹地区、双相地区、三春ダム、東北横断自動車道十次区間(郡山市〜小野町)、福島空港関連道路、原町火力発電所地内などである。
遺跡は、現状のままで保存するのが最善であるが、種々の開発事業によって保存不可能な遺跡も少なくない。このような遺跡の全容を記録保存するための発掘調査を、母畑地区、矢吹地区、会津農水、東北横断自動車道、三春ダム、原町火発、請戸川農水、福島空港関連などについて実施し、あわせて史跡指定調査関和久上町遺跡について実施した。
また、市町村教育委員会においても分布調査、発掘調査を実施し、多くの成果を得た。それらの主なものは次のとおりである。
(一) 原町火力発電所関連遺跡
本年度は九遺跡三万九千平方メートルの発掘調査をしている。鳥打沢A遺跡は、昨年度からの継続調査で本年度は六千平方メートルを調査し、計八千六十平方メートルの調査となった。本年は、古代の製鉄炉三基、鍛冶炉二基、これを囲むように本炭窯七基などが発見された。また、鳥打沢B遺跡の東部斜面からは弥生時代中期後半の土器片が多量に発見されており、住居跡があったものと考えられる。
(二) 南諏訪原遺跡(福島市)
小学校建設工事に伴い、昨年度から継続調査されている。発見された遺構は、縄文時代晩期後葉の住居跡九棟、掘立柱建物跡十棟、柵列五列、奈良〜平安時代の住居跡四十六棟、鍛冶炉跡七基である。特に、縄文時代晩期後葉の住居跡、掘立柱建物跡の多数の発見は、他に類例が少なく、柵列の発見は全国的にも貴重な資料と言える。
(三) 鴨打A遺跡(郡山市)
国営総合農地事業郡山地区に伴う調査により発見された。この結果、縄文時代中期〜古墳時代後期の竪穴住居十棟、埋納ガメ七基、土器捨場三か所で石鏃・土偶・石斧なども多数発見されている。住居跡の一棟から羽口が発見されたことから、製鉄をしていた可能性があり、今後の調査に期待が集まっている。
(四) 古舘遺跡(会津坂下町)
県営ほ場整備事業に伴う調査の結果、幅約五メートルの堀に囲まれた範囲から、竪穴住居跡八棟、方形竪穴状遺構二十五棟、井戸跡三基、墓◆五基、掘立柱建物跡三棟等の跡が発見された。出土遺物は土師器、須恵器、中世陶器、古銭石製硯、輸入陶磁器、鉄製品などで、これらの内、青白磁の出土は会津地方では二例目にあたる貴重なものである。
(五) 荒田目条里制遺構・砂畑遺跡(いわき市)
常磐バイパス改築工事にかかる調査を実施した。調査の結果、縄文時代から江戸時代にかけての多くの遺構・遺物が検出された。特に弥生時代初期の籾痕のついた遠賀川系土器群、奈良から平安時代にかけての百十棟の掘立柱建物跡など、多くの貴重な資料が発見された。