教育福島0151号(1990年(H02)11月)-053page
ると考えますと、その子どもを取り巻く環境を改善したり、子どもの心理的な弱さや発達の遅れを正しく伸ばす援助をすることによって、問題と思われる行動が消失していくという考え方が大事になってきます。したがって、学校だけの対応だけでなく親に対するアプローチも重要な要素になります。
実際に指導にあたる場合には、現在起きている情緒障害そのものを正しく理解した上でかかわりをもつことが大事です。このことによって、少なくとも誤った対処を防ぎ、状態を悪化させることを防ぐことができます。
縅黙児の場合を例をとってみたいと思います。
縅黙は発声器官に器質的・機能的な障害がないのに心理的な要因により音声やことばが出ない状態です。縅黙児は自閉症児などとは異なり、言語を習得し、理解することには特別な障害をもっていません。
心理的な原因で話すことができない子どもに対して、無理に話すように強要することは意味がないばかりか、教師や学校に対する不安を強め、人間関係を悪くしたり、場合によっては登校拒否にまで発展したりする場合もあります。このように情緒障害児の教育では、障害についての理解とそれに基づいた対応が不可欠なものといえます。
心因性の情緒障害児の場合、心理的なひずみを起こしている状態ですので、これに対処するためには心理学の知識が必要であり、また、カウンセリング的な手法が有効になる場合もあります。そのため、治療教育を支える諸理論を知っておくこともいいでしょう。また、登校拒否等のそれぞれの事例に対する指導のあり方についての研修を積み、専門性を高めていくことも必要です。
(2) 二次的情緒障害児に対する教育
まず第一に考えなければならないことは、これらの子どもたちが情緒障害を起こさないような適切な対応が必要であるということです。情緒が安定していなければ学習指導は困難です。そのためには、子どもと教師の信頼関係を確立することが必要です。このことを自閉症児の場合を例にとって説明してみます。
自閉症児は、対人関係が全体的にきわめて希薄なこと、言語の発達が遅れ、反響言語(オーム返し)などがあること、特別な事物への執着や変化への抵抗が強いことなどの特徴をもっています。情緒障害の中でも自閉症児は、指導上、様々な困難を伴う子どもです。障害が重い場合には、多動やかんしゃくなどの不適応行動が多くみられます。自閉症児は特にことばを用いたコミュニケーションがとりにくい場合が多いものです。したがって、ことばにとらわれて対処しようとすると、子どもが自分の要求を相手に伝えることはもちろん、相手の言っていることも理解できないことが起こります。
以上のような特徴がある自閉症児はなかなか指導者の思い通りに動いてくれないことが多いため、指導者は子どもの行動を規制したり、強く指示したりしがちです。また、なんとか課題に取り組ませるように強制することが多いと思います。このようなことを繰り返しても、よい結果が得られないばかりか、むしろ、不適応行動が目立ってくることの方が多いと思います。つまり、信頼関係が成り立っていない状態では効果的な指導ができないと考えられます。
コミュニケーションに障害をもつ、このような子どもたちとどのようにして信頼関係を結べばいいのでしょうか。
最初の段階は子どものしたい活動を保障したり、援助してやることから始めます。そのことによって、教師を「自分に味方してくれる人」「自分を守ってくれる人」として認めるようになります。これが信頼関係を結ぶ第一歩となります。
このようなことを通して信頼関係が結ばれますと子どもたちの情緒が安定して、それまで多くみられた問題行動が減少してきます。信頼関係ができた上で指導に当たるわけですが、教師が計画した指導内容を無理に押し付けることは慎まなければなりません。子どもの行動を観察して、子どもの興味のあることを原点として、それを発展させるような方向で指導を進めることが大事です。
4.おわりに
平成元年度の養護教育センターにおける教育相談件数は、表2のようになっており、情緒障害の相談延べ件数に占める割合が四割近くになっています。また、その他の項目に計上している反社会的問題を含めて考えますと、相談件数が更に増えることになります。このことと併せて、情緒障害の相談件数が年々増え続けていることも見逃せません。
相談を通して感じることは、子どもを取り巻く親や友人、先生を含めた環境が、子どもの心身の健全な育成に合っていないことを物語っているのではと思われることです。情緒に問題を起こしてからあわてるより、いかに予防的な対処がとれるかが今後の学校教育や家庭教育の課題ではないでしょうか。
表2 養護教育センターにおける相談件数
(平成元年度)
障害別 延べ件数(割合) 障害別 延べ件数(割合) 視覚障害 84(3%) 言語障害 48(2%) 聴覚障害 403(15%) 情緒障害 1040(40%) 精神薄弱 442(17%) 重複障害 30(1%) 肢体不自由 181(7%) その他 153(6%) 病・虚弱 234(9%) 合計 2615(100%)