教育福島0152号(1991年(H03)01月)-017page
また、写真銘鑑で六郎兵衛さんの経歴を調べたり、息子さんのお話を聞いたりしたときには、いろいろなことをやったこと、重要な役職を歴任したことなどにまた驚いていた。(写真3)
月舘町の農業の歴史については、「現在の月舘町は伊達九町の中で農業生産額が何番目か」という問題にいろいろな予想を出していたが、一番少ないという答えに大変驚いていた。授業後の感想などを見ると、月舘町の農業はほかより以上に工夫が必要だったことがとらえられたようだ。
わさび漬けの製品を見せたところ、葉わさびが瓶詰めになっていることを知らなかった児童が多く、現在もいろいろと工夫していることに驚いていた。
以上のように、授業中、熊坂六郎兵衛さん達の業績に驚いたり感心したりする姿が多く見られた。何よりも、見学や体験、周りの人に話を聞くという具体的な学習活動が、児童の心情に訴え、理解を深める結果になったと思う。また、自分達の生活とのつながりのつかめる事例だけに、必然的に学習内容に対して関心が高まったのだろう。
写真2 緬羊記念碑の見学
(二) 単元終了後の児童感想文から
多くの児童が、「六郎兵衛さんたちはえらかったんだなぁ」とか、「月舘町の人々は、昔からいろいろな工夫をしてきたんだなぁ」とか書いている。
また、「今の私たちもできる限りのことを考えて、役に立つことができるように、いろんなことをやっていきたい」とか「これからもよいくらしをし、にぎやかな町にしたい」などのように、自分も町の発展に尽くしたいということに触れている者も八名程いた。
地域の発展に尽くした先人の働きについては、よく理解できたようだ。それだけでなく、それを自分に関わることとして受けとめ、町の発展に対する関心をもち始めた児童も何人かいることが分かる。
(三) 児童の意識調査から
事後調査結果及び事前調査との比較の結果(資料1)を見ると、3)の人数が特に多くなっているが、これは本単元の学習内容と直接に結びつく設問だけに当然である。学習した通り、「熊坂六郎兵衛さん」や「農協の人」と答えている者がほとんどであった。
写真3 六郎兵衛さんの息子さんに話を聞く
しかし、他の設問における人数も、少しずつではあるがどれでも多くなっている。本単元の学習をすることによって、自分達の町の発展に対する理解や関心の程度がいくらかなりとも高まってきたと思われる。
ただ、4)の人数が三人しか増えていないことからも分かるように、自分も町の発展に尽くそうとする態度は、そう簡単には育たないことが分かる。
六、 研究の成果と課題
(一) 研究の成果
本単元においては、地域の開発や保全の事例ではなくとも、産業面などから身近な事例を選択し、基本要素をおさえて教材化すれば十分地域社会の発展に尽くした先人の働きをとらえさせることができると分かった。また、自らも地域社会の発展を願う態度の素地を養うこともできると分かった。
(二) 今後の課題
1 地域社会の発展を願う態度を育てる指導は、とても一つの単元の学習だけで行えるものではない。三・四年の学習を通して、あるいは一年から六年までの社会科の学習全体を通して、自分達の生活とのつながりを考えながら社会生活について理解を深めるようにしていかなければならない。そういう意味で、他の単元でも身近な素材の教材化に努める必要があると思われた。
2 ある人物や出来事に対する評価は、人によって様々な面もある。特に身近な事例を取り上げる際には、そのような問題への対処のしかたも考えておきたい。
3 本実践では、農業に関わる事例を取り上げた結果、二・三・五年の農業に関する学習と内容的に重なる部分もでてきた。農業のことばかり学習するようなことになったり、同じことを繰り返し学習することになったりしないよう、配慮する必要もあると思われた。
(本事例は筆者の前任校での実践である。)