教育福島0155号(1991年(H03)06月)-017page

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き方を擦導するところにある。この考えから、「生徒一人ひとりの個性を大切にする生徒指導」を基本理念として日常の生活指導をしていく中で、生徒が自分のより良い生き方を探究し望ましい自己実現ができるような指導と援助をするために次のことを実践した。

(二) 実践の概要

1) 望ましい人間関係の育成

生徒と教師の好ましい人間関係をつくり、心とこころのふれあいを深める努力をした。

・開発的教育相談を基本にした生徒指導の実践

・放課後を利用した生徒と教師のソフトボールの交流試合

2) 学校生活適応指導の充実

さまざまな理由で学校生活に適応できずに、欠席や遅刻・早退に走る生徒たちに適応指導の充実を図った。

・思春期病集中治療室の開設

(思春期病=生徒の興味、関心を喚起する目的で考えた本校の造語)

・個別カルテによる特別指導

・校内事例研究会の充実

3) 道徳心と規範意識の充実

学校での集団生活をとおして、希薄化している生徒一人ひとりのモラルを再生させる手だてとして、本村独自のES週間を設定して全校あげて実施した。

(ES=Establish moralモラルの確立思春期病と同様に本校の造語である)

・交通安全に関するES週間

・万引きに関するES週間

・喫煙に関するES週間

4) 自己啓発を促す特別指導

生徒の問題行動を単に否定するのではなく、病み悩める心の発現としてとらえる。そこで、指導期間中は登校させた上で個々の生徒に応じた指導カリキュラムを編成し、生徒の自己理解を促しながら、より正常でより健康的な発達を目指す積極的な特別指導を実践した。

〇 実践の成果と課題

多くの実践の中から、中退・休学者の減少、問題行動の減少、万引き発生件数の激減など予想以上の成果が上がってきている。しかし最大の成果は、生徒と教師の好ましい人間関係が育まれてきていることである。生徒の指導に終わりはないことを肝に銘じ、更に指導を継続していきたい。

 

五 研究のまとめ

 

人間としての「在り方生き方」に関する指導の在り方は、従来の知識の伝達を中心とする教育から脱皮して、自ら考え主体的に判断し行動する能力を養う教育への転換である。その中にあって、今回の研究で我々が目標としたものは、「自己指導能力」というところに視点を据えたいわば生徒の「心の変容」を目指す実践である。これは数字によって「うかがい知る」ことはできても「確かめる」ことは困難なことである。成果が目に見えることを当然とするならば、我々はいまだその成果を明確に示し得てはいない。

だが研究に携わった者としてはっきりした手ごたえは感じられる。それは我々と生徒との日常のふれあいの中で感じることのできるものである。かつては教師に対して敵意のある目を向けたり投げ遣りな言動を示す生徒がいた。それが急減している。むしろ職員室や廊下で教師に話しかける生徒が目立つようになり、人間的な交流がそこここで見られるようになった。我々はこの研究の実践の中で、教育の原点である「人が人を教える」という望ましい姿を保持しているということをひそかに自負している。今回の研究は、生徒たちに希望と張り合いを与え、我々教師にも教えることの喜びをもたらしてくれた。この目に見えない成果が、二年間の研究を終えようとする今、我々の中に一種の充実感を与えてくれている。

しかし、今我々は研究の第一歩を踏み出したばかりである。その手ごたえを確かに感じてはいるものの、まだまだ求めるところには遠く及んでいない。この生徒の変容をより発展的により確かなものにしていくためにどうすればよいかということが今後の課題である。「これで十分」として現状に安住するのではなく、気持ちを奮い立たせ、より高次なものを目指す真の積極性を彼らの中に涵養していく必要がある。そのためには、我々教師自身が「在り方生き方」を常に追い求める姿勢を持ちながら絶えず変容していかなければならないことを痛感している。

 

 

 


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