教育福島0156号(1991年(H03)07月)-030page
電車の中も至極、平穏でした。
栃木からの乗客の中に、ひと目でアラブ系とわかる体格の良い、精かんな外人二人と、白い杖をついた小柄な盲目の男(ひと)が目につきました。発車と同時に反射的に盲目の男に席を譲ったのですが、行為の後の気恥ずかしさや動揺は、障害をもつ人に対する構えや気張りであり、本当のやさしさではないという思いがします。
大きなトランクを下げた長身の外人二人は、地図を広げて行く先を検討しているのですが、異国の小さな土地を訪ねる困難さが通路を隔てて座っている私にも、不安となって伝わってきます。そこへ若い駅員さんが通りかかり、英語で対応しはじめました。止まる駅ごとにアナウンスをし、その合間に、知っている限りの単語で親切に説明するのですが、かんじんのところが通じないのです。
私の英語力は、駅員さん程にもなく、近づく駅を気にしておろおろするばかり。その時です。まったく考えてもいなかった隣の男(ひと)が、はっきりした英語で
「どこへ行くのですか。」と立ち上がったのです。驚いている時ではありません。私もすぐ横に立ち並び、二人の外人の特徴を口で描写します。「どこのお国ですか。おおイラク。サダムフセイン。ビジネスで。--。」
手まねと英語でなごやかに会話した後その男(ひと)は、私に次のように話してくれました。
「英語は高校でしかやりませんし、二十年も立っているのでよく話せません。日光では、外人の方が多いので話す機会があります。この人たちはイラクの方で、英語でないのでむずかしいです。△△へ行くそうです。私も途中まで同じですから、乗りかえのむずかしい○○まで案内します。」
車両の分かれる下今市に着くと、「さあ、一緒に行きましょう」と二人の先に立ち、日光方面の車両に移って行きました。小柄な盲目の男(ひと)に寄り添う二人は、どんなにか心丈夫だったことでしょう。白い杖が盲人の目ならば、二人のイラクの人にとってその男(ひと)は、白い杖だったかも知れないと感慨を新たにしたのです。
肌寒さに車窓に目をやると、暗がりの中に鮮やかな雪が見え、忘れかけていた雪の生活が、懐かしく優しく心身によみがえってきます。
暗黒の空から、白糸のように絶え間なく降る雪を見ながら、
「名残りとは、本当は余波と書くのかも知れない」という立原正秋氏の一節が思い出されたのです。
(南会津教育事務所指導主事)
生涯学習モデル市町村事業
地域における学習・文化・スポーツ活動など生涯学習を振興するためには、住民の日常生活と密接なかかわりをもっている市町村が中心的な役割を担っています。
そこで、県は、生涯学習社会にふさわしい本格的な学習基盤を形成し、地域の特性を生かした活力のみなぎる地域づくりを行うため、生涯学習を進める市町村を指定し、まち全体で生涯学習を推進して行く生涯学習モデル市町村事業を実施して、その成果の啓発普及により全県的な生涯学習の向上を図っています。
モデルの指定を受けた市町村は、生涯学習のまちづくりの推進本部を設置し、県との連携のもと図1の事業等を実施します。
昭和六十年度から始めたこの事業は、表1のように平成三年度で二十四市町村になりました。
今後ともこの事業の推進を図り、全市町村が″生涯学習のまちづくり″に取り組むよう努めてまいります。
生涯学習のまちづくり推進本部の設置
図1 生涯学習のまちづくり推進事業の企画実施
1)学社連携による生涯学習のまちづくり
2)学習情報提供・相談による生涯学習のまちづくり
3)ボランティアによる生涯学習のまちづくり
4)学習サークルによる生涯学習のまちづくり
5)学習プログラムの開発・実践による生涯学習のまちづくり
6)勤労者の学習機会の拡充による生涯学習のまちづくり
7)生涯学習を進める住民大会の実施による生涯学習のまちづくり
8)地域ぐるみの社会参加活動による生涯学習のまちづくり
9)施設のネットワークづくりによる生涯学習のまちづくり
10)その他、各市町村の生涯学習推進に適切と思われる事業
表1 生涯学習モデル市町村事業・指定市町村名