教育福島0160号(1992年(H04)01月)-022page

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特選入賞論文

図画工作「造形表現における創造活動の基礎的表現能力の育成に関する研究」

−右脳の意図的訓練をとおして−

下郷町立江川小学校教諭 馬場泰

 

一、研究目的

 

一、研究目的

現代社会における子供たちの状況は、人間存在にかかわる非常に危機的な段階にあるといわれている。つまり、高度情報化社会の中で、人間が人間として進化発展してきた手の機能の退化はいうに及ばず、五感が非常に劣ってきているのである。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、運動などの働きの中枢は脳に集中している。五感が劣ってきた原因はいろいろあると思われるが、正しい脳の知識にもとづいた教育が行われなかったことが大きいのではないかと思われる。脳の右脳と左脳の働きが違うということが最近よく言われるようになってきた。右脳は「イメージ脳」左脳は「言語脳」と考えられる。つまり、言語中枢は左脳にあって、そこでは文字や数字を読んだり、理解したりするという分析的・論理的・文学的・記号的な能力が集中している。一方右脳は、イメージ的能力、つまり、絵画や音楽などの感覚的な分野に優れた能力を発揮する。あるいは、直感で物事をいっきょに判断するというような能力も持っているのである。ところが、現代人は極度に進んだ管理社会のシステムを維持するために、明確に区分され、記号化、文字化された情報を誤り無く伝達し合うという必要感からどうしても左脳型の思考に片寄ってきているように思う。同様のことが学校教育の中には無いと言えるだろうか。受験競争の激化により知識を断片的につめ込んでいく左脳優先型の考えが重視されているのではないだろうか。これからの時代を生きていくのに本当に必要な力は、豊かな創造力、自由な発想力、企画力、全体を見通して将来を予知する能力などにかかわっている右脳型の思考のはずである。右脳型の思考へ強い転換を起こさせるのは、絵画だと言われている。描くことを通してものの見方を学ばせることができるのである。こう考えてくると、図画工作科の教科としての大切さを再認識する必要性がありそうである。

この研究では、造形表現における創造活動の基礎的表現能力を伸ばすために、五感を使った体験活動を重視し、右脳を訓練する造形トレーニングを意図的に計画した。この実践をしていく中で造形活動の基礎的表現能力を身につけ、主体的・創造的で調和のとれた人間として子供たちを発達させるための手がかりを得ることができるであろう。

二、研究基盤

(一) 右脳と左脳の関係について

本研究は、最新の脳医学の研究理論を背景にしている。一九八一年にノーベル医学賞を受賞したロジャー・W・スペリー教授が人間の脳の左右の半球が対照的な方法で情報を処理していることを解明した。さらに、B・エドワーズは、脳の右半球の特殊機能を開発することによって新しいものの見方を身につけることが造形活動をするうえでとても役立つという理論を打ち出したのである。それは描くことを学ぶことによって創造性を高めることができるということであった。

現在の小学生は中・高学年になると、創造的な表現をする子と概念的な表現をする子に明確に分かれてくる。どちらかというと、その年齢に合った発達段階の表現力を獲得できないで、自分の表現力に自信を失っていく子の方が多いような気がする。絵を描くのが苦手だという子供にこそ右脳に着目したトレーニングは有効なのではないだろうか。

(二) 造形の基礎的表現能力の明確化

造形活動における基礎的表現能力の中心を右脳の働きと考えた。それを大きく分けると、次の5つになる。

1) パターン認識力

ものごとの一部分だけから全体像をつかむことができる能力。

 

 

 


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