教育福島0162号(1992年(H04)04月)-007page

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強制的に脳に供給されているにもかかわらず、脳が自然に不可逆的に機能を停止してしまうために起こる個体死が「脳死」である。生命維持装置を使用していない場合には起こらない新しい死の現象である。いまから四十年ほど前、私が大学を卒業した当時は、臨床現場には脳死という現象はなかった。

「脳死」は瞬時に起こる現象ではなくて、時間的経過を辿って起こる現象であるから、生命維持装置をつづけて使用していると、脳組織よりも酸素の消費量が少ない臓器や組織はある時間それらの機能を維持することになる。人工呼吸装置によって酸素を含む気体が強制的に、かつリズミカルに気道内に送りこまれると、脳死者の肺が膨らんだり縮んだりする。その結果、胸郭は生存者の自発呼吸と見間違うような運動を起こすことになる。また酸素が生命維持装置により血液の中に十分送りこまれ、人為的に心臓が動かされて血液が体内を循環させられれば、脳死者の顔色は青ざめることなく、生きているような赤味を保ち、体温も冷くならない。このような状態は、囲りから「死んでいるとはとても思えない」という声となって囁かれることであろう。しかし個体に差があって時間は一定しないが、脳死後いくばくかの後に心臓は停ってしまう。

(参考資料、星野一正著、医療の倫理)

 

【筆者紹介】

伊藤司・いとうつかさ

大正十三年 郡山市生まれ

昭和二十九年 福島県立医科大学卒業・インターン、医師免許

三十年 福島県立医科大学助手(解剖学)

三十二年 〃 講師( 〃 )

三十四年 〃 助教授( 〃 )

三十五年 医学博士

三十七年 オランダ留学

四十八年 福島県立医科大学教授(解剖学第一講座)

五十六年 〃 附属図書館長

五十八年 〃 学生部長

六十一年 〃 学長(一期目)

〃 総合衛生学院長

平成二年 〃 医科大学学長(二期目)

〃 総合衛生学院長

日本解剖学会名誉会員

財団法人 日本篤志献体協会理事

【所属学会】

日本解剖学会 日本生命倫理学会 医学教育学会

日本神経科学学会 日本比較内分泌学会 下垂体研究会

【著書】

1)Cross Section Anatomy and Computed Tomography (共著)

1)-4),1997〜1982,IGAKU TOSHO SHUPPAN.

2) 最新のImage Analysis(分担)医歯薬出版、一九八四年

3) 画像診断のための人体解剖(共著)医歯薬出版、一九八七年

 

 

 


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