教育福島0164号(1992年(H04)07月)-021page

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随想

日々の想い

 

心に残る言葉

大楽智子

 

「自分を笑える人間になれ」

 

「自分を笑える人間になれ」

−これは、私が東京で教育実習をしている時に言われた言葉である。楽しいはずの教生生活。現実は辛かった。力のない自分が情けなく、やろうとすればするほどからまわり。そんな時、ある先生に言われたのである。

今でも時々考える。「自分を笑う」とはどういうことだろう。失敗に失敗を重ね、失敗することが昔ほど恐くなくなって、少しその意味がわかってきたような気がする。

「自分を笑える」人間には、心のゆとりがある。よいことも悪いことも、すべてをありのままに受けとめる誠実さがある。人に自分の弱さをさらけだすやさしさとあたたかさがある。

そのような心持ちの人間には行き詰まりがない。事実は事実として、楽しんでしまうからである。楽観主義の人は強い。特に、いろいろな試練にぶつかって、荒波の中で自らを鍛えあげていかねばならない青年時代には、忘れてはいけないことのように思える。

追いつめられた時、ゼロの地点に戻って、もう一度まわりを見渡してみると、新しいものが見えてくるからだ。日本をとり囲んでいる海。日本は、海のせいで、島国として他国との交流が遅れた。しかし、海を世界中の国々とつなぐメインストリートと考え直してみれば、百八十度発想が変わる。

「失敗は人間をつくる」というが、失敗の連続の中で、つまずくことの大切さを実感することができた。つまずいて、人の心のいたみが前よりはわかるようになった。そして、「生きる」というより「生かされている」ことへの感謝の気持ちがあふれてきた。

「申し訳ない」から「ありがたい」という思いへの変革を、五年前に何気なく言われた言葉を通して成し遂げることができたように思う。

頭ではわかっても、身をもってわかるには、もう少し時間がかかりそうだ。いつになったら、本当の意味で、「自分を笑える」ほどのスケールの大きな人間になれるのか、ちょっぴり楽しみながら、今、我が人生のレールをしいている最中である。

(県立遠野高等学校教諭)

 

自然を愛する心

今村隆光

 

て、母衣を思わせる形の花をつけている。まさに野草の蘭の王の貫ろくである。

 

五月のある晴れた日の朝、久しぶりに庭をのぞくと、雪の結晶に似た白く細い花弁をつけたユキザサと並んでクマガイソウが三本、花をつけていた。二枚の扇形の葉の中心から十五センチほど伸びた茎の先端に下垂して、母衣を思わせる形の花をつけている。まさに野草の蘭の王の貫ろくである。

十年ほど前、近所に住む野草好きのおじさんから、一本だけ分けていただいたクマガイソウである。その後何度となく落ち葉を集めては、土の表面を覆ってやったり、苦土石灰を混ぜてやったりなど、栽培上の工夫を試みた。そのせいか毎年のように新芽を増し、今では、十本を数えるまでになった。しかし、一度も花

 

 

 


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