教育福島0166号(1992年(H04)10月)-024page

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学してくる。大変明るい性格であり、クラスの中でもリーダー的存在である。しかし、ひざ立ち、立位姿勢保持といった、運動・動作の機能的訓練も必要とされる養護・訓練の時間は、最初少なからず抵抗を感じていたようである。そこで、楽しみながら訓練に取り組むことができるようにと、W君の好きなプロレスを五分程取り入れ、体と心のリラクゼーションを図ることにした。レスラーの名前をつけながら行っているうちに、彼が憧れていた「獣神サンダーライガー」というレスラーに会ってみたいと言い出すようになった。そして、二人で相談して手紙を送ってみることにした。「ライガーさんが大好きです。あいにきてください」と、短いながらも力強い文章を書きあげた。W君の熱い思いは届いた。何度かの打ち合わせの末、全校挙げて迎えることになった。

六月二十五日。試合等の都合で直前まで時間の変更があり、私としても胃の痛くなる思いでライガー氏を待っていた。来た。何よりもW君の満面の笑顔と、たった一通のファンレターに応えてくれたライガー氏を目の前にして、私は胸が熱くなった。一生懸命練習したお礼の言葉を、緊張しながらも立派に言い切り、手作りのチャンピオンベルトをプレゼン卜したW君。少し紅潮した顔と、自信に満ちた目が印象的であった。

本校の児童、生徒は、障害を持つということから、とかく社会的経験も不足気味で、興味、関心の領域も狭くなりがちである。W君もまさにそういった児童の一人であった。しかし、ほんの小さな関心事でも、自分から行動を起こし、その結果が返ってきたという今回の出来事は、何にも替えがたい喜び、大きな自信へとつながっていったようである。

きっかけは、本当にささいな事からであった。子供達の興味、関心、要求などは、毎日の学校生活の中で、あらゆる所で、あらゆる形で私達に投げかけられていると思う。しかし、それに気づかず見過ごしてしまっていることの方が多い気がする。ほんの小さな可能性の芽でも、それを見つけ育てていく目を、私は養っていきたいと強く感じた。

やっと教師として歩き出した私に、子供達は、実にたくさんの事を教えてくれる。今回も、こんなに素晴らしい感動をくれたW君に感謝している。明日はどんな感動をくれるだろう。感動を共有できるパートナーとして恥ずかしくないよう、頑張っていこうと思う。

(県立郡山養護学校教諭)

 

夕暮れの教室にて

星浩樹

 

誰もいない職員室から、うす暗い空にくっきりと稜線が見える。

 

誰もいない職員室から、うす暗い空にくっきりと稜線が見える。

幼い頃、父に連れられて、この檜枝岐の通りを歩いたのを思い出す。回りの家並みや景色には記憶がなく、ただ、通りのわきを流れていた水の冷たさだけを不思議と覚えている。その父と同じ教職の道をこの檜枝岐の地で歩んでいる。

 

七年前、新採用として二本松の地を踏んだ。今ふり返ると懐かしいが、当時は無我夢中で先輩の後をくっついていた、というのが本音である。問題行動を起こした生徒への指導、そして、カウンセリングの仕方等についても勉強した。また、授業が思うようにいかず、悩み、くじけそうになった時、隣の先生が『自分はこうしたい』と思うことを生徒に言った方がいいよ、と学級通信を見せて下さった。そこには、生徒へのきめ細かな愛情に裏打ちされた強く、厳しい教師の姿があった。

最後の学校祭の合唱コンクールと球技大会で、どのクラスよりも強い精神と闘志を見せた我がクラスの三十七人の瞳は光り輝いていた。彼等は教師がいかに厳しく、そして、素晴らしいものであるかを教えてくれた。二本松での二年間は生涯忘れることはないだろう。

 

教室に入ると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。こうして教室を見回していると、生徒一人一人の顔が浮かんでくる。一年生の時の幼い面影はすっかり消え、男子は顔つきや身体つきも引き締まってきた。女子もあどけなさが消え、女性らしくなった。年月が積み重ねられているのを実感する。生徒たちは三年生になり、私も檜枝岐へ来て三年目を迎えた。あと六カ月足らずで生徒たちとの別離がやってくる。平気で人の心を踏みにじるような人にはなって欲しくない、そう言い続けてきた。思いやり、正直さ、我慢強さなどを身につけたバランスのとれた人間になって欲しい。そのためにも

 

 

 


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