教育福島0169号(1993年(H05)02月)-020page
ントゲッターのS君が血液の病からドクターストップをかけられてしまい、チームはまさにどん底状態に陥ってしまった。
不安を抱えて臨んだ支会大会は案の定苦杯を喫し、市大会では辛うじて第三位となったが精彩を欠き、県大会出場はオープンの種目とはいえ出場できるかどうかは微妙なところであった。
わたしも生徒たちも出場をあきらめていたとき、校長先生から、「もう一度チャンスをやるから生徒たちを頑張らせてみなさい。」という思いもかけない激励を受けた。喜んだわたしや生徒たちは、起死回生のチャンスを生かそうと県大会までの約一か月間、必死に練習に励んだ。その中に取り入れた合宿では、保護者も献身的に協力してくれ、充実した練習に打ち込むことができた。加えて県大会直前にS君が復帰、自信を持って県大会に出場することができたのである。
県大会では三位入賞、さらに東北大会でも生徒たちは一戦ごとに自信にあふれたプレーを展開して、とうとう決勝まで進出した。決勝の福島県勢同士の戦いでは、惜しくも敗れて全国大会出場は果たせなかったが、試合後の生徒達の表情は、満足感とすがすがしさで満ちあふれ、わたしもここまでやれた生徒たちの頑張りと努力にただ感動するばかりであった。
わたしは、この年の中体連の貴重な経験を通して、チームスポーツの難しさを改めて知るとともに、生徒に秘められた「無限の可能性」のすばらしさと、それをいかに引き出すかについて、指導の糸口の一端を垣間見たような気がする。貴重な経験をプレゼントしてくれた生徒たち、周りの方々に感謝しつつ、今後の教育活動に一層励んでいきたい。
(いわき市立内郷第一中学校教諭)
ある朝の風景
佐久間光春
今朝は、移(うつし)唯一の信号機のところで交通指導です。時間が早いためかまだ生徒の姿はちらほら。A君が来た。彼はいつも早い。「おはよう。」と声をかけると、頭を下げて「おはようございます。」の返事。「寒いね。」の声にこくつとうなずく。
東から、小学生の集団登校の列が到着。小学生に向かってあいさつをする。児童らは、「おはようございます。」と元気なあいさつ。眠そうな子、寒さのため鼻水が出ている子、私をじろじろ見る子らの表情が実に愉快だ。列の最後を歩いている子は、中学校二年生Bさんの妹、顔がそっくりだ。来年度入学予定。多分教えることになる。楽しみだ。
道路に目をやると、少しばかり降った雪が、家屋の北側の道路では解けずに凍っている。「ここはあぶないな」と思っているやさきに、一年生のC君が自転車でやってきた。
「まさか!」と思った瞬間、ブレーキをかけすってんころりん。「大丈夫か?」の声に返事がない。痛さをこらえ、すぐキッと立ち上がって歩き出す姿に彼なりの意地を見た。赤面し、おしりをへこましながら歩いていった。背後から、「おはようございます。」とD君。彼は「しっかり見たぞ。」という笑い顔だ。D君に「だまってろよ。」と私。「ハーイ。」と元気に返事をしながら、C君を追いかけた。彼らはクラスメイトだ。
「ご苦労さまです。」の大きな声に左手を見ると、移駐在のおまわりさん。「おはようございます。冷えますね。」と私が手と手をこすりながら言うと、「手袋貸しますか?」と自分のものを脱ぐしぐさ。「いいえ結構です。ありがとうございます。」とお礼を言った。生徒や児童が続々とやってくる時間になった。仕事に出かける保護者や地域の人たちともあいさつを交わす。
八時五分、そろそろ生徒の姿もなくなってきた。「中には、七キロ、八キロも歩いてくる子もいるんだもんね。学校に来るだけでもえらいですよ。」と駐在さん。確かにこういう状況もきちんとわきまえて日々の教育活動にあたらねばと再認識する。
最後の生徒は、五キロ先から徒歩で通うEさん。遅刻すまいと小走りだ。「一緒に歩いていくか。」と誘うが、恥ずかしいのか首を横により、そばに来ない。旧校門で指導していた担任I先生の温かい声に、ニコッとかわいい笑顔。
校舎から生徒の声が聞こえ、移を囲む山々は澄んでいる。すがすがしい気分で、 一日が始まる。日々の温かいふれあいが教育活動の原点であると心にうけとめ、教室に向かう。
(般引町立移中学校教諭)