教育福島0172号(1993年(H05)07月)-048page

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図書館コーナー

 

子どもと読書

 

一九九三年三月、作家の井上ひさしさんを会長に、関係十五団体が集まり、「子どもと本の出会いの会」が結成されました。子どもの本離れが叫ばれているこの時期に、子どもの読書環境を豊かにする運動がはじめられたのです。「ものを考えたり表現したりする基礎となる言葉は、本を読むことで獲得していく。子どもたちが本を読まないのは、その意味でも非常に心配」と、井上さんは会結成の動機をこう語っていました。

全国学校図書館協議会が調査し発表した、第三八回「学校読書調査」(毎日新聞・一九九二年十月二十八日付)でも、十年前と比べて一ヵ月に一冊も本を読まない子どもは、小学生は七→十二%、中学生は四十二→四十六%、高校生は五十六→六十%と増えています。特に高校二・三年の男子においては七割を超えています。ところが、平均読書冊数に目を向けてみると、十年前とほとんど変化がないのです。つまり、一ヵ月に一冊も本を読まない子どもに対して、一ヵ月に十冊以上読む子どもも増えていることになります。

「読む子」「読まぬ子」、広がる差(毎日新聞の見出し)、これが今の子どもたちの読書の現状のようです。

しかし、「読む子と読まない子」の問題は今にはじまったことではありません。ただ現在は子どもの本だけでも一年間に三千点以上も出版されていて、ジャンルも絵本・文学から科学まで多種多様です。公立図書館においても、児童室の充実は図書館運営の主要な柱となっています。地域の自主的な子ども文庫も、四千を数えています。十年前に比べれば、本を読める環境は確実に整ってきています。子どもの身近な所に本は増えているはずなのに、なぜ本を読まない子どもが増えているのでしょうか。

子どもが変わったのでしょうか。

いえ、子どもは変わらないと思います。もし変わったとするならば、子どもを取り巻く環境だと思われます。受験競争の低年齢化、それによる塾通い、けいこ事、体育教室、クラブ活動など、日常生活がとても忙しくなっています。それに加えて、TVをはじめ情報メディア、ファミコン、ゲームボーイなどの普及により、子どもたちの楽しみ方も拡散化しています。これでは、ゆっくり読書を楽しむ時間も、心のゆとりも少なくなってしまうかもしれません。まして、絵本や本もビデオソフト化により、「読」まなくても、映像でも「読める」ようになってきているのですから。

「読書」をするためには、何が必要なのでしょうか。

まずは、読みたい本を自由に手にすることのできる場所(特に、学校図書館の整備・充実)、それから、本さがしの手助けをしたり励ましてくれるおとな(両親であったり、図書館の職員であったり、文庫の人であったり)の存在と、そしてなによりも、自由な時間が必要だと思います。自由な時間、そして心のゆとりがあれば、子どもはたっぷりと「読書」の喜びにひたれると思います。

井上さんは、「子どもと本の出会いの会の運動は、半分はおとなに向けての仕事と思っている」と話しています。今の本離れは、子どももおとなも同じです。まずは、おとなが本を手に取り、豊かな読書環境を作っていかなければと思います。

 

第38回学校読書調査

 

第38回学校読書調査

 

第38回学校読書調査

毎日新聞(1992年(平成4年)10月28日)

 

 

 


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