教育福島0173号(1993年(H05)09月)-048page
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教育ひとロメモ 総務課
学校事故 事例に学ぶ教員の注意義務
◇ 小学校の学級活動として行われたソフトボール試合に審判として参加した児童が、打球を左眼に受けて失明した事故で、教諭の指導に過失があるとされた事例(浦和地裁平4.4.22判決)
1) 私立小学校四年生のXは学級活動として行われたソフトボール試合に出場し、審判を担当させられているときにファウルチップのボールを左眼に受け負傷し、それが原因で左眼を失明するに至ったこと。
2) 試合を指導していたA教論は、この試合で使用するボールがソフトボール用のボールでなく、硬式テニス用のテニスボールを使用しているのを黙認し、審判には防護マスクを着用させていなかったこと。
3) 投手がこのテニスボールを上手から投球していたのを目撃しているのに制止しなかったこと。
裁判所は1)2)3)を認めたうえで、A教論は審判をしていたXが受傷する危険性のあることを予見できたのにこれを看過したとしてA教論に過失があると判断した。
◇ 過失について
過失とは「注意義務違反」、つまり教育活動における児童・生徒の安全を確保すべく教員に要求されている注意義務に違反することです。
注意義務は事故が発生するという危険性を予見・予知しているべきであるという結果予見の義務と、その結果を回避すべきであるという結果回避義務とに分けることができます。危険な結果の発生が予見可能であるならば、充分な調査等によってこれを予見しておくべき義務があり、また、これの回避が可能であるならば回避すべき義務があります。そのような義務を尽くさなかったことが過失です。
過失責任の内容
◎ 過失があるとされる場合
ア、事故の発生を予測できたこと
イ、不注意によって事故の発生を予測しなかったこと
ウ、予測はしたが、事故の発生を回避しなかったこと
エ、ア、イと事故発生の間に相当因果関係があったこと
◎ 過失が無いとされる場合
ア、事故発生の予測が不可能だった場合(例:突発性の事故)
イ、事故発生の回避が不可能だった場合
ウ、教員の不注意と事故発生との間に因果関係が無かった場合
エ、社会的にみて相当な注意を尽くした場合
◇ A教諭の過失についての裁判所の判断
(1) 下手投げであったとしても硬式用テニスボールは、ソフトボールに比べて重さは軽いが小型でしっかり手で握ることができるために速めの投球ができることや、ファウルチップの中にはボールがバットの芯に当たらず、速度を変え、回転を増して直線的に審判を直撃するものもあることは容易に想定できるのであって、しかも、本件でA教諭は、本件試合の参加者中に眼鏡やコンタクトレンズを装着している生徒が数名いたことを知っていたのであり、これらの生徒が審判を行う可能性のあることも充分知っていたのであるから、A教諭は防護マスクを着用せずに審判をしている生徒の眼に硬式用テニスボールが当たれば眼に傷害を負う危険性があることを充分予見できた。
そして、本件事故当時、小学校にはソフトボールクラブがあったことはA教諭も認識していたのであるから、防護マスクを準備することも充分可能であった。
したがって、A教諭は、本件試合に際して審判をする生徒の受傷を避けるべく、防護マスクを用意して着用させるなどして防護について特別に配慮すべき注意義務を負っていたものであり、その義務に違反した過失がある。
(2) さらに、A教諭は、本件事故直前に、投手の生徒が上手からボールを投げており、それだけ勢いが増し、傷害の危険性が高まっていたことやXが審判していたことを直接に認識していたにもかかわらず、同教諭は、上手投げを止めさせるなどの措置をとらず、一時現場を離れるなどしているのであるから、同教諭には、その時点で、投手の生徒に上手投げを止めるように指導すべき注意義務に違反した過失も認められる。
◇ おわりに
事故発生の危険性が全くないという教育活動は考えられません。事故防止のために充分な配慮をしたうえで教育活動に当たるならば、事故の発生そのものも減少するでしょうし、万が一に事故が発生しても責任を課せられることはないでしょう。そのためには、どのような場合に、どのような内容の、どの程度の注意義務を尽くしていれば充分な配慮を行ったとされるのかを知っておく必要があります。これまでの事故例及び事故裁判例をできるだけ多く知る機会を作っていただきたいと思います。
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