教育福島0175号(1993年(H05)11月)-048page

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教育ひとロメモ

 

総務課

 

体罰の禁止

 

◇ 文部省の調査によると、平成4年度中に体罰に係る懲戒処分等を受けた教員は、全国で懲戒処分53人(前年度47人)、訓告等241人(同211人)、諭旨免職1人の合計295人(同258人)である。体罰が行われた場面は、授業中62件(30%)と部活動中41件(20%)で50%を占め、部活動中は前年度の7.1%からかなり増えている。場所は運動場・体育館55件(26%)、教室38件(18%)、廊下・階段22件(11%)と続く。諭旨免職は体育の授業中に教員が生徒を20数回、腹部中心にひざ蹴りしたケース。停職の懲戒処分は、部活動で生徒の手をストーブに押しつけたケース、ラケットで腹部をたたいたケースなどである。

 

◇ 体罰の禁止

わが国の学校教育における「体罰の禁止」の規定は、すでに明治12年の教育令に登場し、その後、明治23年の小学校令、昭和16年の国民学校令、現行の学校教育法に受け継がれ、百年以上の歴史をもつ。その意味では教育界の常識であるはずなのに、なかなか後を絶たないのが現状である。

児童・生徒等に対する懲戒について、学校教育法第11条は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と規定し、教員の懲戒権を規定すると共に、体罰を禁止している。

懲戒とは、望ましくない行為に対して教育の必要上加える一定の制裁であり、校長が行う法的効果を伴う退学・停学処分、法的効果は伴わないが学校全体の意思表示としての訓告の他に、個々の教員が行う叱責、起立・正座・居残り強制等の事実行為としての懲戒がある。教員の懲戒行為が問題となる事件では、上記規定に反した体罰がなされたか否かという観点から当該教員の行為の違法性が問題になることが多い。

個別の体罰が問題になると、「生徒にも問題があった」「生徒に非を分からせるためには体罰も必要」「教育熱心の余り」として、体罰を容認する意見が出されることも少なくない。しかし、そのような理由によって体罰が認められるわけではない。懲戒の理由があり、懲戒をする場合に、その方法として体罰を用いてはならないというのが、体罰を法で禁止している意味である。

 

何が体罰か

体罰とは進退に対す侵害を内容とする殴る・蹴る類の他、正座・直立なと特定の姿勢を長時間にわたって保持させるというような肉体的苦痛を与える刑罰をいう。これは、昭和23年法務庁通達でしめされた、学校教育法第11条の「体罰」の意義である。

注意しなければいけないのは、殴る、蹴ることは典型的な体罰であり、児童、生徒がケガをしなければ体罰に当たらないという理解は謝りである。また、長時間の正座、や起立の強制、食事を与えず空腹の状況におくことやトイレに行かせないことも、肉体的苦痛を与えるものとして体罰に当たるのである。

軽く叩くこと、短時間正座をさせることが法で禁止する体罰に当たるかいなかは、個別的に判断しなければならない。真冬に渡り廊下のコンクリートの上に、女子生徒がストッキングのまま正座させられ冷えから身体に障害が残った事例がある。炎天下のグランドでの正座は短時間でも罰に当たるであろう。頭核児童・生徒の年齢、健康、場所的及び時間的環境等の諸条件を考え合わせ肉体的苦痛の有無が判定されるのである。

 

◇ 体罰に係る法的責任

懲戒処分が正当な範囲を超えて行われ体罰に該当する場合は違法行為となり、体罰をした教員と校長及び自

治体には次のような法的責任が問われる場合がある。

1) 行政責任:公立学校の教員・校長は公務員法上の懲戒処分を受ける。

2) 民事責任:自治体(教員)は体罰による身体的・精神的損害の賠償責任が問われる。

3) 刑事責任:刑法上の暴行罪、障害罪あるいは逮捕監禁罪等に当たる場合がある。

◇ 学校教育法施行規則第13条は「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当たっては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。」と規定している。従って、懲戒を加える場合は、事実関係を充分に把握し、懲戒の対象となる行為のほか、本人の性格、心身の発達状況及び平素の行状、その行為が他の児童・生徒へ与える影響、本人の将来への影響等、諸般の事情を考慮し、懲戒により予期し得る教育的効果と児童・生徒の被る何らかの権利侵害の程度を比較考慮し、教育上必要とされる限界を逸脱することのないように、冷静な判断と対応が必要である。いかなる場合であっても、懲罰として体罰を加えることは認められていないことを常に忘れてはならない。

 

 

 


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