教育福島0179号(1994年(H06)06月)-022page

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こととなった。

これらを研究するに当たって『在り方生き方』を主要な領域とする特別活動における指導はもちろん、教育活動の全分野を網羅し、すべての教職員で取り組むことによって、生徒が『人間としての在り方生き方』を自ら考え続けるように努めた。

生徒たちが、この課題を主体的に把握し、考え、自らを成長させるように導くことは教師の側からだけの働きかけや、単なる先哲の思想の知識的紹介では不可能であることから、『人間としての在り方生き方』について、生徒が自ら考え、自覚を深めるよう指導計画を立て、実践項目を定めることにした。さらに、これらの実践を行うために次の事柄などに配慮した。

1)自己実現の観点から、生徒たちの成長段階に応じたより高い次元の人生や生きがいの目標を見いだせるように、親や教師は指導援助する。

2)自然に触れ、自然の美しさに感動するとともに、自然界に生きるすべての動植物の神秘に触れ、命を慈しむ心を養ってこそ『豊かな心』が育まれるものと仮定し指導する。

3)地球の至るところで、飢餓や民族紛争に直面し、苦しんでいる人たちがいることは知りつつも、自分との関わりを認識していない生徒が多い。生徒たち自身、何をどう行動してよいかわからないでいるのが実態であることに配慮する。

4)世界中の人々の恩恵を受け、毎日の生活を何不自由なく送っていることを認識したうえで、その人々のために自分として何ができるのかといった『地球市民』の考え方が育つよう指導する。

5)日本の文化と伝統を尊重しつつ、異文化の理解を深め、音楽や美術そして文学作品などをとおして、世界に通用する日本人の育成を図る。また、二十一世紀を担う人間であるという意識を育む体験をとおして、『在り方生き方』を体験させる。

研究主題の『人間としての在り方生き方』そのものが、多くの価値観を許容するもので、その面での困難さはあったが、校歌にテーマを見つけることによって、具体的な実践として取り組むことができた。しかし、それぞれの実践において、どの程度生徒の心に響き、毎日の活動に生かされ、広い視野を得ようと自ら取り組むようになったかという点については課題を残している。

特別活動では、二時間連続のホームルームを各委員会主催で実施した。HR担任が必ずしも自分のクラスを担当するのではなく、普段接することの少ない学科の生徒との触れ合いや、複数教員での担当など生徒たちにとっては、新鮮に映っていたようである。

各委員会主催で行った講演会に特筆すべきものがあった。いずれもが生徒たちの心の奥深くに訴えるものがある内容であった。また、研究運営委員会で主催した『地域懇談会』も代表の生徒のみの参加ではあったが、有意義なものであった。

さらに、三年に一度の学校祭においては、『人間としての在り方生き方』というテーマを生徒がどの程度自分のものとして考えているかを知るよい機会であった。清陵太鼓のセレモニーには、須賀川太鼓保存会のメンバーが何度となく学校に指導に来られた。これに応えて生徒たちが熱心に指導を受けた。加えて、清陵情報高校のための新曲が演奏できるようになった。このことは、まだまだ地域から学ぶにふさわしいことがあり、生徒を意欲的に活動させる人がいることを認識させてくれた。

(2) 今後の課題

急激に進展する現代の社会に生きる生徒たちが、二十一世紀に向け、一人ひとり自らの人生をしっかり見つめ、『広い視野で』、『豊かな心で』そして『たくましく生き』、それぞれが主体的に生活していくことができるように、高等学校の教育の段階においても、『人間としての在り方生き方』の指導法の研究を一層充実させていく必要がある。この実践を推進するためには、生徒自らが日常の生活の中で、考え・悩みさらに様々な人間関係の中で成長し、大自然の中で感動し、社会の青貝として奉仕活動に参加するなどして、生徒が教室以外の学習においても幅広い経験ができるように条件整備をする必要がある。それと同時に、教師や保護者など、周囲の大人が自らの役割りをわきまえ、生徒の良きモデルとなることも必要となる。

そのためには、家庭、学校及び地域社会がそれぞれの果たすべき役割を確認し、単に学校のみでなく、生徒や家庭の願いを聞き、地域・他校などの諸機関に働きかけ、それぞれが持っているお互いの課題について話し合う中で、実践を進めていかなければならない。

学校教育の中で最も大切なものは学ぶ意欲である。学力や知識はもとより、教科・特別活動・学校行事などを超えた生活全般に及ぶ全ての領域にわたる広範囲な活動の中で、感動を味わい、主体的に活動し、能力を発揮する時、意欲もまた大となるであろう。これを継続して実践するときに、生徒たちにとって大きな意味を持つことになる。

 

 

 


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