教育福島0179号(1994年(H06)06月)-025page
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一週間の入院から
星美智子
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昨年の夏、一週間ほど入院した外科病棟の病室には、私の他に四名の患者さんがいた。その一人に、手術をして入院しているとは思えないほど元気で明るく動き回るおばさんがいた。おばさんは、縫合の糸でつっぱるという左腕を胸の所まで曲げ、左足を引きずりながらも軽快に動く。自分の身の回りの事はもちろん、動けない患者さんの食事や点滴の世話、部屋の掃除、乾いた洗濯物の取り込みの手伝いまでも。そして、気さくに声をかけ、楽しそうに話をする。いったい、何の手術をしたのだろうかと不思議に思えるほどだった。
間もなく、おばさんの病気は、乳ガンで、左乳房を全部摘出する手術をしたことが分かった。さらに、わずか半年前に、四十代の旦那様を病気で亡くし、息子さん二人を親戚に預かって頂いていることも知った。それまでのおばさんの様子からは、とても想像がつかない境遇に唖然としてしまった。改めておばさんの心情を思い、世の無情さを痛感した。
私は、以前、身体のことでささいなことにこだわって、一ヵ月以上も眠れなくなってしまったことがある。その当時のことを思い返すと、自分の殻に閉じこもり、自分の事だけしか考えられず、周囲のことに目を向け、周囲の人を気遣う余裕がなかった。自分のこだわりと自分の立場ばかりを考え、悲観的な考え方しかでさかった。今考えると、それまで挫折らしきことを味わわず、自己中心的な生き方で生きてきた人間の初めての挫折に、対応しきれなかった結果だったように思う。
ある日、おばさんが、同室のみんなを一階待合室までの散歩に誘ってくれた。大腸手術後の経過が思わしくない、と心配ばかりしていた患者さんは、途中で具合が悪くなったら、と不安がり、断わった。しかし、おばさんは、気分転換に良いから、と車イスを準備し、その人を乗せ散歩に連れ出した。おばさんは車イスのそばにずっと付いて様子を伺い気遣っていた。病室にもどって、その患者さんの口から、
「久し振りにベットを離れて気持ちが良かった。行って良かった。」
という言葉が出た時、おばさんは、本当にうれしそうだった。私も何となくホッとした。病人は、ともすると孤独になりやすい。そんな同室の仲間を、自分も大病でありながら、気遣い慰めることのできるおばさんは、何とたくましい、すばらしい人だろうと、感じ入ってしまった。
私のこれまでの体験からは学べなかった、教え”を受けた一週間の入院だった。
(南郷村立南郷第一小学校教諭)
教師の思い
志賀力
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子どもとのかかわりをどう行えば、子どもは生活しやすくなり、満足感を覚え意欲の向上につながるかを考えない教師はいないと思う。
ただ、心身に障害のある子どもとのかかわりでは、教師の思いどおりには進まないことが多いように思う。
例えば、一緒に遊べる友達が少ない子どもに、せめて先生とならうまく行くだろうと考え、朝は職員室で待たせて出勤してくる先生方に「おはようございます」と挨拶をさせる。
挨拶ができるようになったら、次はお茶くみを手伝わせる。いつもはよだれを垂らしていても、お盆の上に載せた湯飲みからお茶がこぼれないようにと注意しながらお茶を運ぶ。すると、よだれは不思議に止まる。
これは社会性を身につけることができ、身辺生活の処理の上でもいいし、将来の生活にも役立つ何とすばらしい教育実践かと一人ほくそえむ。
何日か繰り返すうちに、挨拶も自分からするようになるし、先生方の名前も覚えはじめ、湯飲み茶腕も見分けることができるようになる。すごい進歩だとただただ嬉しくなる。
だけど、先生方になじんでくると、仕事をしている側に来て話しかけるのでじゃまなように思える。ぼんやりしているとよだれが出る。それを拭くようにとちり紙を差し出す先生もちょっとつっけんどんのように思
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