教育福島0181号(1994年(H06)09月)-037page

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三、保有聴力の活用

聴力障害児の聞こえは、子供自身の聞こうとする意欲、学ぼうとする意欲・興味にも関係していますが、ここでは、補聴器と聞こえの能力だけの問題に限って考えてみます。

補聴器をつけると、確かに今まで聞こえなかった音が聞こえるようになりますが、健聴の人と同じように、ちいさな音まで聞こえるわけではありません。現在のところ、補聴器をうまく使いこなしても、聴力レベルの半分位しか補うことができないのです。つまり、聴力レベルが80dBの人は、補聴器を最大限活用してもまだ聴力レベル40dBの障害があるということになります。

また、聞こえの能力についてのもう一つの問題は聞き分けの能力です。補聴器は単に音を大きくするだけの機械ですので、聞き分けまで手助けしてくれるわけではありません。この聞き分けの能力は、初めて補聴器をつけた時期、聴能学習の有無、聴力の程度等によって、個人ごとに違っています。

これらの点を踏まえて、聴覚障害児とのコミュニケーションを考え、かかわっていく必要があるのです。

 

四、聴覚障害児とコミュニケーション

これまで述べてきたように、聴覚障害といっても、その聞こえやことばの障害はさまざまですので、必要とするコミュニケーション手段もさまざまです。

昨年、文部省の委託を受けた「聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究者会議」の報告が出されました。その中で、「聴覚障害児が社会参加・自立したのちのコミュニケーション手段については、国語(話しことばと書きことば)と手話や指文字等による補助及び併用を行なうこと、場面や相手等に応じたコミュニケーション手段の使い分けを行うことが必要になる。」と、述べられています。

これは、これまで、学校教育や社会の中で併用とはいえ、その必要性、有効性が認められたものと言えます。

また、この報告書では、発達段階に応じたコミュニケーション手段とその活用についても記載されており、特に幼稚部入学前・幼稚部・小学部では従来の聴覚を活用した口話教育の重要性が報告されています。これは、これらの年代の聴覚障害児のコミュニケーション手段として、保有聴力の活用の可能性を、低年齢段階における大脳の発達と共に期待する必要があるからです。

しかし、人の心を伝えるコミュニケーションは、聴覚経路だけで成立するわけではありませんので、その他の視覚的手段である読話や文字言語、手話、指文字、キューサイン(補助サイン)等が、必要に応じて用いられてます。

 

五、聴覚障害児とうまくかかわるために

「聴覚障害児の発音が不明瞭なため、話の内容がなかなか分からない。」と、よくいわれます。このようなときは、まず本人の表情を見てください。表情から、その心の状態を推測してください。心の状態を見届け共感をもって接すると、彼らは、もっと落ち着いて、相手に分かるように話すことができるのです。

また、体を使ったサインは、一般的にも用いられる表現方法で、日常会話ではごく自然に用いられることも多いはずです。特に、まだ、ことばが不自由な子供の場合は、こうした体のしぐさや表情は大切な手段です。ことばの意味を体のサインで理解していきながら習得していくこともできるのです。

なお、指文字などが空書文字と同様に必要に応じて用いられば、より、コミュニケーションをスムーズにできるかと思われます。

 

おわりに

聴覚障害児は、一般に聴覚障害を除けば、他の点では健聴児となんら変りません。しかし、適切な処置がなされないと難聴及びそれによる言語発達障害のために、コミュニケーションが困難になり、その結果、二次的に、情緒面、行動面などに障害が生ずることになります。これは治療よりも本来予防すべきものであるということを踏まえて、子供とかかわっていくことが重要であろうかと思います。

 

 

 


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