教育福島0186号(1995年(H07)04月)-022page

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子どもの部屋通信

 

ここ数年、子どもの読書が注目されています。平成五年には、作家井上ひさし氏が会長となり『子どもと本の出会いの会』を創設、同年十二月には、国会議員であり児童文学作家の肥田美代子氏が立案して、『子どもと本の議員連盟』が設立されました。文部省でも平成六年に「児童生徒の読書に関する調査研究者会議」を開催し、そのメンバーに漫画家・石ノ森章太郎氏や児童文学者・角野栄子氏が選ばれています。このように、子どもたちの読書離れが大きな問題として受けとられ、大人たちが動きだしました。

確かに、『全国読書調査』(全国学校図書館協議会による)を見ても、本を読まない子どもは増え続けています。一冊も読まない子どもの数は、小学生では一二%、中学生では五一%、高校生では六一%を示し、「本なんか読まなくたってどういうことはない」「読む暇なんかない」となどと言う声が聞こえてきます。児童室のカウンターにいても、十年前と比べて子どもたちの様子が変わったように思われます。以前は、「早く帰りなさい」と言われるまで子どもたちは児童室で過ごしていましたが、今の子どもたちは、常に時間を気にかけ、「今何時ですか」と聞きながら、本を見たり探したりしていますし、本を選ぶとすぐに帰ってしまいます。子どもたちに話を向けると、「学校の帰りが遅い事」「帰ってからも塾・習い事・スイミングスクール・スポーツ少年団等で忙しい」との事でした。さらに、ファミコン等に見られる遊びの違いを含めた子どもの環境の変化は、確実に読書にも影響を及ぼしているといえます。

さて、子どもの読書環境はといえば、十年前より迄かに充実したものになっています。例えば、児童関係図書の出版件数は、平成四年度で三千冊を超えています。逆に「本が多すぎるのでは」との声も聞こえてきます。しかし出版界を見てみると、確かに新刊書の点数は多いが品切れ・絶版の本も多く、読みたい時に入手出来ない事も出てくるわけです。本の寿命が短くなっているというのが現状なのです。

図書館の数も増えました。もちろん児童コーナーも充実したものになっています。図書館利用者も年々増加していますし、土曜・日曜日にはたくさんの家族連れが来館しています。なのに何故、本を読まない子どもが増えているのでしょうか? 子どもは本が好きです。幼いとき、お父さんやお母さんの膝の上で本を読んでもらい、楽しく過ごした思い出があるならば、忙しくとも本との出会いを大切にするはずですし、たくさんの本を読んでいるはずです。そのような経験の少なかった子どもたちが、今本から遠ざかっているのではないでしょうか。もしかしたら、その子どもたちは読みたい本に出会えないだけなのかもしれません。出会い方を知らないのかもしれません。

平成八年度から、東京都では小中学校の図書館に、専任の司書教諭を配置する決定のあったことが新聞に掲載されていました。司書教諭は、『学校図書館法』で設置が義務づけられていながら、附則で「当分の間猶予する」となっていることから、施行から四十年近くたった今でも、配置されることがなかったのです。東京都の制度は全国初であり注目されます。公共図書館は、来てくれる子どもたちだけへのサービスに限られていますが、このことにより、全ての子どもたちに、本との素敵な出会いがあるものと信じています。

子どもの読書離れに、本に係わる人たちが立ち上がり、文部省も動き始めました。あとは子ども自身と、家族の人たちがもっと本に関心を持ってもらえばと期待します。子どもにとって、本を読んでもらうことは愛情の体験なのです。一家団欒の時間、寝る前の心休まる時間、心のふれあいの時間なのです。そしてそこには、大人の子どもに対する愛情があり、子どもの大人に対する信頼があるのです。そして、自分自身で本を読むことが自立の体験、親にも先生にも誰にも煩わされない自分の世界を作っていく、自立の過程の体験なのです。

本との出会いは、今だけではない、将来においても良かったと思える素晴らしい体験なのです。

 

 

 


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