教育福島0186号(1995年(H07)04月)-024page

子どもの目、教師の目

矢吹伸一

　

　

S小学校を離任する日、Tさんがかわいらしい笑顔で、私の前に立った。そして手紙を読み始めた。

「先生には心配ばかりかけてごめんなさい。だけど、これからは中学生だからもっとしっかりして…。」

おこづかいで買った花瓶とご両親からの手紙を添えたプレゼントに、私の目は潤んだ。

Tさんの不登校が始まったのは、五年生の三学期からだった。生徒指導を担当する教師として私が関わったのは、Tさんが六年生になってからである”家庭訪問でのご両親の相談と担任の情報から、不登校の原因となった要因が見つかった。腹痛で父親に学校まで送ってもらった日、先生は「具合の悪い時は無理をさせないで休ませます。」と本人と父親に約束した。そして体育の時間、Tさんが不調を訴えると、「もう少しがんばってみたら。」という先生の言葉。Tさんにとってみれば、約束違反の言葉であり、教師にとってみれば、励ましの言葉だったにちがいない。そんな行き違いのやりとりが不登校のきっかけになったりする。

本人の心の弱さは両親も認めているし、ただ毎朝元気に自分の力で登校してほしいという願いひとつである。担任も学年の先生方も彼女への指導に腐心した。わがままと思われる事にも、まず本人の意志を重視することから学級の取り組みが始まった。やりたい係、気の合う友達と触れ合える座席、熱中したものに自由に取り組める時間の確保など、集団生活では特別扱いと思われるような事である。私は、家庭でのTさんの生活ぶりを両親から聴き、担任や先生方のTさんに対する愛情の深さをその都度両親にお話しした。担任は欠席しても遅刻しても温かく見守る態度を一貫して取り、登校した時は、学校での様子を両親に報告し続けた。学級の子どもたちの思いやりもあって、Tさんは不登校から立ち直り、一人で登校できるようになると自然に集団生活のきまりやけじめなどを自分の口から言いだすようになった。自分を取り巻く家庭・学校・友人・先生の熱い愛情とやさしさに気づいたのである。Tさんが、教師との信頼関係を回復し、周囲との関わりを意識し始めてくれた。

子どもの目と教師の目を同じにしなければ信頼関係は保てない。子どもの心の奥底に触れて初めて子どもの思いがわかる。どんな子であっても、その子にとって学校と教師は、いつも自分を見続けていてくれるかけがえのない信頼できる存在でなければならないのである。

(石川町立野木沢小学校教諭)

　

原　点

阿部秀昭

　

　

相馬郡飯舘村立飯樋中学校。今はもう存在しないこの学校が、私の教員生活のスタートの地になった。

飯舘村は、今でこそユニークな村おこしや飯舘牛、ふくしま駅伝「村の部」三連覇などで有名であるが、十年前に辞令をいただいた時の私には、どこにあるのかすら分からない所だった。しかし、その地が私にとって生涯忘れることのできない、いや、忘れてはならない思い出深い地になった。

自分が教師として勤まるのだろうか、誰しもが初任時には抱く不安ではなかろうか。私も、もちろん例外ではなかった。そんな時出会ったのが駅伝である。高校、大学と陸上部に籍を置き、中・長距離走をやって

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