教育福島0187号(1995年(H07)06月)-033page
特集3
障害の改善克服を目指して
養護教育課
第一章 心身障害とは
心身に障害があるため、小学校や中学校の通常の学級における教育では十分な教育効果を期待できない児童生徒に対しては、その心身の障害の状態や発達段階、特性等に応じてよりよい環境を整え、その可能性を最大限に伸ばし、可能な限り積極的に社会に参加する人間に育てるための特別の教育のしくみを用意する必要があります。
障害があると、生活する上で不便なことがあります。強度の弱視で目が見えなければ、離れたところにあるものや端から端まで触れられない大きなものについて正しく認識することは難しいです。しかし、停電で真っ暗闇になったときの動きは、かえって強度の弱視のある人の方がスムーズということもあります。
生まれたときは、自力で歩けませんし気持ちも相手にうまく伝えることができません。年老いてくると体を意のままに動かせなくなったり物忘れが増えてきます。だれでもが通る道ではあります。こういう状態もやはり障害といってよいでしょう。
とりわけ、成長の途上にありますと、障害の影響は大きくなります。
第二章 障害に応じた教育とは
障害の種類や程度は一人一人異なりますので、一人一人違った対応をすることが欠かせません。
障害を改善克服するための指導を行う領域として「養護・訓練」があります。養護・訓練は、通級指導教室、特殊学級、盲・聾・養護学校という養護教育にしかない指導の領域で、児童又は生徒の心身の障害の状態を改善し、又は克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培うことを目的としています。
その内容としては、
1 身体の健康
2 心理的適応
3 環境の認知
4 運動・動作
5 意思の伝達
の五つの柱で成り立っています。
例えば視覚障害ですと、眼の病気を知って悪くしないようにする(身体の健康)、よく見えないながらも強く生きていこうとする(心理的適応)、見える力をうまく使って周囲の状況を知る(環境の認知)、白杖を使って歩く(運動・動作)、点字で考えを伝える(意思の伝達)というように、養護・訓練の領域は深くかかわっています。
もう一つが、未発達の段階にある児童生徒を対象とした、各教料や道徳、特別活動、養護・訓練の領域を合わせた指導である合科、統合という指導形態の「遊びの指導」「日常生活の指導」「生活単元学習」「作業学習」の四つがあります。この形態は、主に精神薄弱や重度・重複障害児の指導で行っています。
養護教育にだけある養護・訓練や合科・統合という指導形態は、それが単独になされるだけでなく、組み合わされることによって、より効果的な指導となることがあります。
第三章 実践例
これから、養護・訓練と合科、統合の指導実践例を紹介します。
聴覚障害D児の養護・訓練
県立聾学校
一 聴覚障害
人間は、聴覚を介し、意思や感情を伝えあったり、様々な環境音を聞くことで、生活空間を認知しています。音楽をはじめとした文化的なものも聴覚の恩恵を受けています。
生まれたときから聴覚に障害があり適切な対応がなされないと、空間概念や言語発達の遅れのみでなく、精神発達や情緒面の発達にも何らかの問題を生じかねません。
ですから、聴覚障害がみつかれば、できる限り早期から残存する聴力を最大限に生かし、言語の取得を促すことが、重要となります。
ところで、聴覚障害児では、遠くからの小さな音が聞こえにくい(三〇〜四〇dB(デシベル))程度の軽度の難聴から、補聴器無しには聾となってしまう(九一dB以上)最重度の難聴、そして一三〇dBスケールアウトで測定機器の限界を超えるまで、聞こえに大きな幅があります。
さらに、高次な言葉の聞き分けや理解では、失聴の時期や失聴の経過、教育歴や教育内容、加えて、どんな認知障害を伴うかなどにより、聴力レベルが七〇〜八〇dB程度であって