教育福島0187号(1995年(H07)06月)-034page
も言葉が理解できないものもいれば、一三〇dBスケールアウトであっても電話でのおしゃべりができるものまで、その聴覚活用、言語発達の上では大きな違いがあります。
したがって、どんなに聴力レベルが厳しい状態であっても、聴覚学習、言語学習の可能性を信じ、発達経過と指導過程を十分に観察、吟味し、指導を継続していくことが大切です。
ここでは、幼児期に発達の遅れが少し疑われ、音声言語の受容、表出に困難さがあった子供に対し、文字と指文字を用いてコミュニケーションを図る指導から開始し、緩やかではありますが、確実な言語発達が認められた事例について紹介します。
二 事例 小学部二年感音性難聴児
1 聴力レベル
右耳 九五dB 左耳一〇〇dB
補聴器を利得三五dB〜四五dBで装用し、五〇dB〜六〇dBの音が検知できるレベルにあります。
2 生育歴
出生時や乳児期は、特に問題に気づきませんでした。二歳八ヵ月のとき、聴覚障害と診断され、二歳九ヵ月よりSセンターで訓練を始めました。補聴器は二歳十ヵ月より装用しています。三歳になり聾学校幼稚部に入学しました。
3 幼稚部入学当初の様子
呼びかけや楽器音の有無にはよく応答し、友達の行動や前後の状況から大まかに活動内容を理解し、友達や教師と楽しそうに活動しました。
「アーウー」「アアア」とよく声を出して活動していましたが、有意味語はありませんでした。
そこで身振りや絵カードを用いて理解を補い、口形文字を用いて続話への意識化を図るなどして、音声言語の受容と表出を誘導する方法を試みました。
しかし、擬声語、擬態語が二、三出たのみで、有意味語の理解、表出はほとんどみられませんでした。
三 幼稚部での指導
1 D児は、補聴器を通して音を受容し、音を楽しんだり、音声を手掛かりにして、行動していました。
しかし、音声を聞き分け(読話を含め)記銘じ、話言葉と事物との意味的対応を行うことに困難があると思えました。そこで、音声のように即時的に消えるものでなく、繰り返し確実に確認できる文字と指文字を用いることが必要と考えました。
2 指導と発達の経過
日常のコミュニケーションでは、活動内容の伝達やD児の要求の確認等で、音声言語とともに、文字と指文字で受容、表出させ、確実に言葉を確認し合うこととしました。
このような指導を通し、語が定着し、D児がものの名前を音声や指文字で確認しようとするなど、伝達内容が明確になり、言葉への関心が高まりました。家庭でも、父親に学校で覚えたことを伝えるなどコミュニケーションが活発になりました。
四 小学部での指導
1 課題と指導仮説
D児は、身近な内容であれば二〜三語文を理解し、指文字と音声で表出できました。しかし、文字を基盤としているため、一音一音区切って発音したり、一字一字指文字で綴りながら、語の学習を行っていました。
小学生になり、教科学習等で多くの言語情報の処理が必要となって、学習効率をより高めていく方法が必要と考えました。かな文字は元来音声言語を視覚化したもので、一字一字綴らなければならないのに対し、音声言語はイントネーションやアクセント等の特徴を持ち、語や文をより大きな意味の一かたまりとしてまとめ易いという利点があります。
そこで、より効果的に学習を進めるため聴覚音声回路でのフィードバック態勢を促進すべきと考えました。
D児のような感音性難聴は、音声の一部が受容されても、それが歪んだ不鮮明な音と聞こえ、聞き分けが困難なことがあります。ですが、言語処理は、信号の特徴から始まるデータ推進型の処理と有意味な推測から始まる概念推進型処理の二方向からなされますので、聴覚障害があっても、日本語の音韻=発音体系、語や文の学習が進むと、それらの知識を手がかりとして聞き分けが可能となってきます。そこで、発音指導による音韻学習と語、文の拡充を図る中で聴覚音声回路でのフィードバックの意識付けを進めました。
2 指導の結果
表1は、WPPSIとWISC-Rでの変化です。表2はITPA言語学習能力診断検査で、聴覚音声の得点はまだ低く、音声言語のみで伝