教育福島0187号(1995年(H07)06月)-035page

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わらないことも多いが、すべての項目で得点が上昇し発達を認めることができます。

五 おわりに

聾学校の子供たちは、幼稚部段階で、かなり音声言語での生活習慣が確立していないと、視覚情報依存の傾向が強まり、言語学習の扉がせばまってくるように、これまで感じていました。しかし、D児は、当初かなり狭かったこの扉は、少しずつ広がってきている感じがいたします。

日常生活でのD児は、状況判断が遅く、要領よく行動できるタイプではありません。しかし、じっくりと学習に取り組み、学習したことを一生懸命使おうとする姿には、学習することの喜びを教師に感じさせます。

聴覚障害児教育で言われてきた「九歳の壁」は、行動の結果のみに気をとられ、コミュニケーション状況をあいまいにして見過ごした教師自身が作っているのかも知れません。

 

T君の動きを引き出す三年間

(養護・訓練を主にして)

県立郡山養護学校

一 はじめに

本校は、肢体不自由の養護学校で、小学部、中学部、高等部があります。

T君は昨年度高等部を卒業しました。ここでは、高等部での三年間の取り組みを紹介いたします。

二 高等部一年生のときの様子

1 運動・動作面

四つんばいでは、自分から三〜四メートルほど移動できました。日常の生活では車いすに乗っていますが、自分から操作する様子は見られませんでした。あぐら座やいす座では、左股関節の脱臼が原因で、脊柱の側弯が見られました。

2 遊び

手を合わせて音を出したり、両手で耳をふさいだり離すことがよく見られました。音の出るものを目の前に置くと、手を出すこともありました。教師が手をとって体を揺らすと、声を出し楽しんでいることもありました。しかし、友達への働きかけはあまり見られませんでした。

3 コミュニケーション

話言葉はありませんが、名前を呼ばれたときに、手の平を開いたり閉じて返事をすることができました。自分から何らかの要求を出すことはあまり見られませんでした。

三 日標

1 友達や教師に対して、自分からかかわろうとする気持ちを育てる。

2 体の緊張に気づき、それを自分で緩めることができる。また、正しい体の動かし方を身につける。

3 自分からものにかかわったり、車いすで移動しようとする気持ちを育てる。

四 実践の経過

高等部の授業は週32単位時間で、T君の場合、表3のように教育課程は編成されています。

以下、総合生活、養護・訓練の時間の指導を中心に経過を述べます。

1 総合生活(学級集団での学習)

一年目が色ぬりを中心とした紙芝居作り、二年目ははり絵による紙芝居作りを、三年目には卒業製作や文集作りに学年で取り組ませました。

 

紙芝居の発表

 

紙芝居の発表

 

卒業製作では、三学年合同で鉢カバー作りをしました。教師と一緒にヤスリをかける活動を始めたときには、されるがままでしたが「キュッキュッ」と動作に合わせて声をかけながら行うと、にこにこしながら自分でも手を動かすようになりました。

教師の手をつかんで、やりたい気持ちを伝える様子も見られました。

 

表1 知能検査でのIQの変化

生活年齢言語性IQ動作性IQ
3歳11か月WPPSI 78WPPSI検査不能
4歳WPPSI 87WPPSI検査不能
8歳2か月WISC-R 102WISC-R 62

 

表2 ITPA言語学習能力診断検査での得点の変化

 

表2 ITPA言語学習能力診断検査での得点の変化

 

表3 単位数

領域・教科単位数週時間
国語3
社会2
数学3
理科2
体育3
音楽2
美術2
職業・家庭4
総合生活5
HR2
クラブ1
養護・訓練3
合計32

 

 

 


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