教育福島0187号(1995年(H07)06月)-037page

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行動は見られませんでした。しかし、学校生活や教師に慣れてきた頃から、次第に次のような行動を起こすようになりました。

1 突然、学習活動から離れ、注意を促すとますます活動から離れ奇声を発したり、ものを投げる。

2 登校するとおもちゃを出したり黒板に絵や文字を書いたりしてなかなか着替えに取りかからない。

3 下校時間になると「帰らない」と言って、床に寝ころんだり逃げ回り、素直にスクールバスに乗ろうとしない。

三 かかわりの方針

M児とのかかわりを通して、このような行動を起こす原因として、次の三点が考えられました。

1 このような行動を起こすことによって、教師が自分をどのように理解しているか、自分にとって安心できる人なのかを試している。

2 自分の方に目を向けて欲しい、かかわってほしいという気持ちを表現している。

3 自分の好きな遊びが十分にできない、もっと遊びたいという要求や不満をぶつけている。

M児の不適応行動の背景には幼い頃に母親と離別し、親の愛情を十分に受けられずに育ったことも考えられることから、M児の行動を肯定的にとらえ、次のような方針でかかわることにしました。

1 M児の要求をできるだけ受け入れる。今すぐ実現できない場合は、M児に分かるように話し、約束したことを必ず実現する。

2 事前に終了の予告や約束をする。行動の切り替えが困難なときは、無理に誘わずに自分から行動に移すことができるまで待つ。

3 興味・関心のあるものを学習活動に取り入れ、活動を通して決まりや約束を知らせる。

四 実際のかかわり

1 日常生活の指導を通して

本校では、児童一人一人が一日の生活に見通しを持って生き生きとスタートできるようにするとともに、個々の課題学習を継続して取り組める場にしたいという考えに基づいて、着替え、課題学習、学級朝の会などを行いました。

M児には一日の生活が安定した気特ちでスタートできるようにコミュニケーションを大切にしました。このため、着替えがスムーズにいかなくても、幼い子供がお母さんに甘えて着替えを手伝ってもらいたいという気特ちになることがあるように、無理に誘わずに、M児の気特ちが切り替わるのを待ちました。着替えの中で一つ一つできたときには大いに称賛し意欲を喚起しました。

M児は、朝の活動に見通しが持てるようになり、教師とのかかわりも少しずつ深まり、以前よりもスムーズに着替えるようになりました。

 

一人で着がえるよ

 

一人で着がえるよ

 

2 生活単元学習を通して

M児が興味を持っている音楽やパソコン、ワープロ、粘土遊び、調理活動などに主体的に取り組み、成就感を味わうことができるようにしました。また、これまでに経験してきたことを、学習活動の中に取り入れることによって、見通しが持てたり、積み重ねによって自発的に活動ができるようにしました。M児は教師や皆に認めてもらうことを非常に喜ぶので、できたときや一生懸命取り組んだときには称賛をして、学習意欲を高めていきました。

M児は、学習活動や日常生活全般を通して、教師との関係が親密になるにしたがい、どんどん甘え、自分の要求を言葉で表現するようになりました。また、友達とのかかわりも広がり、休み時間には友達を誘って遊ぶようになりました。更に、授業始めのチャイムが鳴ると、教室に戻ってくるようになり、その場その場の中で、自分がどのような行動をとらなければならないかが分かって行動できるようになってきました。

五 おわりに

M児とのかかわりは一年という短い期間であり、しっかりとした信頼関係が確立されたとはいいがたいです。ただ、遊びや日常生活の中で自分の感情を素直にぶつけ、おんぶを要求して甘える姿に、教師としていくらかでもM児の心のよりどころになりつつあったのではと思われます。

常に安心できる人を求めているM児とのかかわりを通して、改めて受容することの大切さ、子供がその行動を起こすことによって何を訴えているのか、不適応行動を改善しようとすることよりも、それらの行動を真剣に受けとめて、かかわることの大切さを痛切に感じた一年間でした。

 

 

 


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