教育福島0189号(1995年(H07)09月)-007page

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教職志望の学生と教員OBとの合宿で

 

教職志望の学生と教員OBとの合宿で

 

こうした時代状況の下で、教育の場に携わる者は、数年後に社会人として旅立つ若者たちを前に、どのような希望や目的を掲げることができるのだろうか。学問の基礎を培い、専門分野に進み、これを社会に役立てていこうとする若者たちに、夢多き未来は見えてくるのだろうか。社会と教育は決して無縁のものではない。夢多き社会があってこその、夢多き教育なのである。

しかし、教育を行う者にとっては、諦めることも、悲観することもあってはならない。それは教育に携わる者の「特権」でさえある。なぜなら、教育は未来を創り出す営みでもあるからである。

クラス会の席で、最後に結論として出たのは、こうした時代であるからこそ、私たちは教育の原点に返るべきなのではないのか、ということであった。教育の原点とは、教える者と教えられる者との信頼の上に立って、子どもたちの個性と可能性を尊重することであり、同時に幅広い見方や考え方を養うことである。また自己のあり方への不断の検証と、社会に貢献しようとする姿勢を培うことである。例えば、オウム真理教の若者たちに欠けていたものは、こうした個人の個性と生命をかけがえのないものとする感性や、独断と偏狭な事門性に陥ることのない幅広い教養だったのではないだろうか。

元気いっぱいの恩師を囲んで、二次会へと向かいながら、私は友人たちとそうしたことを考えていた。

 

【著者紹介】

斎藤利彦・さいとうとしひこ

〔略歴〕

一九五三年 宮城県生まれ

一九七一年 福島県立磐城高等学校卒業

一九七七年 東京大学法学部卒業

一九八四年 東京大学大学院教育学研究科博士修了

博士(教育学)

〔現在〕 学習院大学文学部教授

大学では教育法規、教育制度史の講義を担当。教職志望の学生たちと毎年夏に合宿をしている。OBの若手教員たちが大勢駆けつけ、教育の実態について学生たちとともに語り合っている。

〔主著〕

『競争と管理の学校史』(東京大学出版会)

〔共著〕

『教育課程の創意と工夫』(学研)、『戦後の公民教育構想』(教育史料出版)、『新しい歴史教育』(大月書店)、『総力戦体制と教育』(東京大学出版会)、『「見る・読む・わかる」日本の歴史』(朝日新聞社)等

 

 

 


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