教育福島0190号(1995年(H07)10月)-026page
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不安感でいっぱいなのだ。それなのに自分の気持ちも分かろうとせず、上から命令的に押しつけてくるそんな新担任の言葉は、拒否したくなるのも当然の話だったのである。でもこの第一日目の失敗は、「子どもの心に添って」という私の決意を更に強める出来事となった。
登校と同時に買物のレシートを要求し、それがないと他の先生の所まで行って求め続けるS男。時には引き出しや財布を開けさせてねだる。一緒にレシート探しをする中で、なぜこれにこだわるのか、他の人に迷惑をかけないで満足できる方法はないかを考えた。その結果、自分でレシートを作らせるという方法を見つけた。
一緒にレシートを作る毎日。その中でS男のいろいろな思いが分かってきた。字が書けない、言葉では自分の思いを伝えられないもどかしさを、レシートをながめることによっていやしていたのだ。レシートの中に、物を買った楽しさや好きなものを買いたいという願いを重ねあわせて満足していたのだ。
それからは、S男の要求に添いながらS男の喜ぶ表情を手がかりに、さまざまな方法を見いだし、満足できるものを増やしていった。今ではレシートへのこだわりがうそのように消え、感情も安定して生活している。
私が子どもの思いや願いを無視して教えようとすると、強い抵抗に合う。なぜこのような態度をとるのかわからず、「教えて」と子どもに向かった時、子どもは持っている力や思いを出してくれる。私の思いを瞬時に読み取り、子どもと同じ目の高さで接した時は、失敗しても信頼して許してくれる。しかし、異なる時は、赤信号がともってしまう。
現在、「私自身が子どもたちから力をもらっている」という、以前には経験しなかった思いを味わわせてもらっている。信頼に応えられるよう子どもの心に添って歩んでいきたい。
(いわき市立小名浜第二小学校教諭)
「風」を創る…
遠藤和雄
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「第一学年のテーマを『新しい風』にしたい。」初めて学年主任の口からこのことばを聞いた時は、何かこそばゆいような、それでいてこれから入学してくる生徒たちに思いを馳せ、緊張に身が引き締まる思いがした。
前任校でのスタートは、私も含め学級担任四人が着任したばかりという異例のスタッフで、生徒たちはもちろん、学年主任・副主任はさぞ不安だったのではないだろうか。入学式直後の職員紹介では、一学年の担任が紹介されるたびに、保護者の動揺の色が濃くなり、しばらくざわめきが収まらなかった。しかし、そんな不安を吹き飛ばしてくれたのが、学年テーマ「新しい風」だった。翌日の学年集会の中で、「君たち一人ひとりが新しい風になれ。」と話す学年主任を見つめる生徒たちの熱い眼差しは、すでに「風の子集団」そのものだった。
二年生の時のテーマは、それまでの一年間をふりかえり、教師集団の徹底した討論によって生まれた。とかく目標を見失い、中だるみといわれる二年生にあえて望んだテーマは、「力強い風」。目の前の問題解決に対して教師も生徒も妥協せず、修学旅行などの行事に対しても真正面から取り組む姿は、とてもたくましく見えた。そして、「力強い風集団」が旅立つ二年生の時は、「たおやかな風」というテーマのもとで予想される問題に若竹のようなしなやかさをもって対応する姿を期待した。生徒たちは期待通り本質を追究しようと努力し、文化祭での演劇や卒業送別音楽会での合唱は、三年間の集大成となり、新たな伝統の一ページを刻んだ。
不思議なことに日を追うごとに教師自身も学年のテーマを意識するようになり、それが学級経営の大きな柱となっていた。四人の学級担任は、これも異例であるが、そのまま三年生まで持ち上がり、学年テーマのもとでそれぞれの個性を発揮し、互いに学ぶ点は多かった。また、例年通りにこだわらず、積極的に新たな試みを実践した。学級活動の簡単なゲームとして、数名が輪になり、手をつないで行う指相撲を完成させるなど、教師集団も創造の喜びを味わった。
ふり返えると「新しい風」「力強い風」「たおやかな風」というテーマは、それ自体が、新鮮な、そして優れた学年経営だった。担任の個性を引き出し、創造的に営まれた学年の組織力が「風の子集団」を成長させた。
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