教育福島0193号(1996年(H08)02月)-031page

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を買い、それを動かしながら話しかけた。T君は微笑みながら自ら教師に話しかけ、かかわりをもてるようになった。教師とのかかわりに慣れるにつれ他の児童の中に入れるようになった。

2 好きな音楽を通して行動を活発にする。

T君は体が硬く動作緩慢で動くことを嫌い、集団生活が困難な状態であった。そこで、T君が好きな音楽を活用して体を動かすようにした。

〈音楽に合わせて〉

体を動かす際、T君にとって意味あるようにするためオルガンを弾くと、音楽に合わせて自ら歩いたり走ったりした。さらに、握ったり開いたりと、手先の運動や腕を伸ばしたり曲げたりと上肢の運動も自ら行った。運動後はT君の表情が明るく、T君自身も気分が良かったようで、大変効果があった。

〈マットとなわとびを活用して〉

体を動かすことに慣れてきたので少しずつ大きな運動に発展させた。マットを使って体を動かすと声を出して笑い、音楽をかけると自ら積極的に動くようになった。次に体力を高めるためになわとびを始めた。縄を回すだけでも多くの時間を要したが、根気よく取り組むとできるようになり、大変驚いた。六年生の頃には、三十数回できるようになり、体力もつき集団生活もできるようになった。

3 体験や経験を通して興味・関心を広げ自己表現ができるようにする。

T君は生活範囲が狭く経験や体験が乏しいことから、できるだけ身近な自然体験をさせたいと考え、校外学習に取り組んだ。

〈動物と遊ぼう〉

本地域は白鳥の飛来する池や岩瀬牧場・鳥見山公園があり、自然環境が大変豊かである。これらを生活単元に組み入れ、動物と触れる機会を設定した。T君は小さな動物ですら近寄れずに逃げ回っていたが、餌を与え触れる機会が増すにつれ、恐怖感が薄れ動物を可愛がるようになり、精神的な成長を見ることができた。

〈作物を育てよう〉

T君は祖父母が農業を営んでいるため、農作物に対して興味をもっていた。簡単な手伝いも少しずつできるので、学級でT君が知っている作物を栽培し、働く態度を身に付けるとともに、生産の喜びを知り、主体的に生活できる力を育てたいと考えた。

作物の種類はT君が知っているものをT君の家からいただいた。苗の植え付けから収穫まで草むしりや観察をしたり、畑に行くたびT君は驚きと喜びを身体で表し、作業に対して意欲的に取り組んだ。収穫した時はまた格別で、大切に家に持ち帰るなど大きな変容が見られた。

 

〈日記を書こう〉

 

〈日記を書こう〉

T君は学年が進むにつれ、単語であるが何とか話せるようになった。そこで、簡単な文章で表現できるようにと絵日記を試みた。はじめの絵は家族の顔だけであったが、月日がたつにつれて買い物にいったことなど変化が見られるようになった。また、絵日記から短い文章にと表現する力が身に付いてきた。さらに、朝の発表会では自信をもって何とか最後まで話せるようになった。

 

五 T君の変容

 

このような実践を通してT君に次のような変容が見られた。

○集団生活において、同学年児童と行動が一緒にできるようになった。教師が一緒でなくても、生活のリズムに合わせて一人で行動したり、言葉による指示を理解し活動したりできるようになった。

○語いが豊かになり、会話が成立するようになった。他の人に自らかかわる姿が多く見られた。

○指示に対して根気強く取り組むとともに、細かい手先の作業にも抵抗を示さなくなった。

 

六 終わりに

 

T君と出会ったときは何をどうしたらよいか悩む毎日でした。しかし、五年の年月を共にし、T君の成長が見られたことは、私にとって大きな励みとなりました。指導で悩んだときには、保護者と話し合い、共通理解に立って取り組んできました。そして、T君には養護学校の中学部に進学させたいと、養護教育センターへの相談と養護学校の見学で適正な就学を行うことができました。

T君は、現在一人でバス通学をし、生き生きと伸びやかに中学生活を送っています。成長した姿に家族は大変喜び、微力であっても今までの苦労が総て報われたように思われ、T君に出会えたことを幸せに思っています。

 

 

 


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