教育福島0194号(1996年(H08)04月)-020page

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図書館コーナー

 

図書資料と保存

 

貴重な文化遺産である図書資料を次世代に引く継ぐことは、図書館にとって重要な任務ですが、では「保存」とは何なのか「保管」とどう違うのかを考えてみます。

「資料の保存」を定義すると、資料の現在と将来の利用を保障しアクセシビリティー(入手しやすさの保障)を高める、ということになるのですが、とくに「保管」と違うのは、いつでも、だれにでもいつまでも利用できるようにしておくということで、単なる倉庫業務と区別しています。

では、この貴重な図書資料の保存を進めるには具体的にはどうするかですが、先ず資料の劣化の要因を知ることが必要になります。

1)デリケートさを欠く取扱いなどの物理的要因、2)高温多湿や紫外線などの化学的要因、3)黴や害虫などによる生物的要因の三つに分けられますが、これらの要因について正確な知識を持つことが基本となります。

つぎに、保存環境と劣化状況の確認が求められます。大規模な図書館などではこの作業にかなりの時間と労力を要します。

確認ができたら、つぎに資料保存方針の決定をしますが、これには保存ニーズの把握と利用需要の見通しが前提となります。

では保存対策の実際ですが、資料は日常の利用によって物理的なダメージは避けられません。これを最小限に止めるための工夫が必要になるわけです。

とくに明治期の新聞などのように、紙そのものの劣化が非常に激しい場合は、利用の制限もせざるを得ません。原紙の利用に代わるものとして、マイクロフィルム化された新聞があります。さらに最近では、新聞記事索引などのCD-ROMが登場しています。これらの代替資料の利用によって、原紙の保存を図りつつ利用ニーズにこたえることが可能になりました。これらの、利用のための記録媒体変換については、今後ますます高度化・専門化されていくことと思われます。ただし、あとで触れるように、これらの新資料についても新しい問題が生じて来つつあるようです。

それではつぎに、「保存」のための資料劣化予防の具体的な方法にはどんなものがあるか考えてみましょう。

だれもが思いつくことの第一には湿度管理の問題があります。とくに今日の建築物では温湿度の自動制御は常識になっているわけですが、実はここに落とし穴が潜んでいるようです。というのは、勤務時間内には精緻な管理をしている温湿度も、退庁後の時間帯では制御が解除になってしまう例が多いため、結果として大きな温湿度の落差が生じてしまうことになり、資料の劣化を促進するという皮肉なことになっているようです。

湿度のほかには、紫外線の害が指摘されています。とくに窓際に置かれた資料の初期の褪色から、紙そのものの急激な劣化についてはよくご存じのことと思いますが、蛍光灯が発する紫外線の害についてはつい最近注目されてきたに過ぎません。美術館の収蔵庫などで使用されている、紫外線カットの蛍光灯に替えることが効果を期待できます。

劣化防止でとくに話題を集めたのが、図書資料の酸性紙問題でしょう。これは、使用された紙そのものの酸性の問題とともに、印刷時にインクの定着性をよくするために使用する酸性薬品の問題も注目されています。

これら酸性紙資料を救うためには「脱酸」作業という、かなり本格的・専門的な作業を専門業者に委託して行う必要がありますが、これには相当の経費を必要とします。

また今後の課題として、いわゆるニューメディアと呼ばれる資料の保存問題が浮上してきました。これらの資料も初期段階では半永久的とまで言われましたが、CD-ROMの寿命に関する神話は、すでに崩れ始めているようです。

こうなると、日本古来の和紙に筆で認めた文書の保存状態の良さ、たとえば先日話題になった「冷泉家時雨亭文庫」のことなどを、つい考えてしまったりします。

 

 

 


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