教育福島0194号(1996年(H08)04月)-026page

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数学の先生の言葉が私を励ましてくれた。「この無駄が教師としての真の力になるのかもしれない。」この世の中に本当に無駄なことなど、あまりないのではないか。生徒にも、目の前の「受験」だけにとらわれるのではなく、もっと広い視野を持って勉強してほしいと思う。一番いろいろなことを吸収できる時期なのだから、もっと「無駄」なこともしてみてほしい。もちろん、資源の無駄だけはいただけないが。

(福島県立会津高等学校教諭)

 

わたしの初任者研修

野地敏明

 

が吹き込んできたかのように、子供たちも職員室の中も明るさを増しています。

 

今春、わたしたちの学校では大学を卒業したばかりの若い二人の先生方を迎えました。まるで春風が吹き込んできたかのように、子供たちも職員室の中も明るさを増しています。

二十二年前、わたしも今の彼らと同じように、阿武隈山系の山間にある小さな小学校に赴任しました。その学校で、当時四十半ばだったS先生と出会いました。S先生は経験豊かで、指導技術、話術がすばらしく、何よりも教育への情熱を人一倍感じさせる先生でした。こんな方ですから、子供たちからも保護者からも絶大な人気のある先生でした。幸運だったことに、わたしは校地内の教員住宅でS先生と一年間寝食を共にし、教職に関する様々なことを学ばせて頂きました。現在、初任者研修が制度化され、年間九十日ほどの研修が新採用者に行われていますが、S先生と過ごした一年間は、わたしにとってたいへん貴重な初任者研修だったと思います。

図工科の指導に堪能だったS先生が、ある時、版画の授業を見せてくださいました。子供たちが熱心にしかも自信たっぷりに版画作りに取り組んでいました。今もそのときのものを参考作品にするために何枚か持っていますが、構図のすばらしさと一彫り、一彫りにていねいさや根気強さを感じさせる作品ばかりです。

しばらくしてわたしも、四年生で木版画の授業を行うことになりました。わたし自身小・中学校でしか経験したことのない版画だったので、白と黒の割合や彫り方など子供たちから質問されても自信を持って答えることはできません。S先生からのアドバイスを期待していましたが、そんな気配は全く見られませんでした。住宅に帰ってからもS先生から何の指導もありませんでした。わたしもやや意地になって、子供たちと版画作りに当たっていましたが、ある程度完成に近づいてきた段階で助言をして頂くことにしました。S先生は、この時を待っていたかのように、一つ一つの作品について細かに指導してくださいました。「優れた教育技術は人に甘えず、自分で苦労して獲得しなさい」ということをS先生は教えてくれたのだと思います。

これは多くのことを学ばせて頂いた中の一例ですが、今日何とか一人前に教師として仕事を勤めさせて頂いているのは、S先生のおかげと思っております。

いつの間にか、わたしも二十二年前のS先生と同じ年代になりました。これまでお世話になった方に恩返しをするためにも、若い先生方に何か役に立つことができればと思います。

(いわき市立小玉小学校教頭)

 

ある「涙」から思うこと

堀田隆

 

いて元気を出すように一言声をかけると、うつむきながらも大きくうなずいた。

 

新年度が始まって間もない日の朝のことである。教室前の廊下に三人の女子生徒の姿があった。その中の生徒の一人は目を真っ赤にして泣いていた。直接話しかけるのもはばかられ、彼女の友人にそっと理由を尋ねてみた。「先生、家で飼っているハムスターのトムが昨日死んじゃったんだって。」私は慰めの言葉もかけず、彼女たちをそっとそのままにして朝の学活を終えた。教室を出ると彼女は大分落ち着きを取りもどしており、私が肩をたたいて元気を出すように一言声をかけると、うつむきながらも大きくうなずいた。

私にも同じような経験がある。私

 

 

 


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