教育福島0197号(1996年(H08)09月)-007page
で磁気とか電気、光学的な性質が決まってしまう。
この電子は他の電子に邪魔をされない限り、できるだけ″自由″に行動したいという本性をもっている。しかし、物質のなかには、人間社会と同じように、一個だけではなく多数の電子が存在する。自由に動きたいと思っても、他の電子から力の影響を受けて自由行動は制限されてしまう。また、物質のなかでは電子は単独でいる方が確率的に高くなる。したがって電子は互いに″独立″したくなる。一方、さきに述べた物質を構成する原子は整然と碁盤の目のように並んでいて、この原子に電子が捕まってしまう。しかしこの場所は他の電子の邪魔にならずに多くの仲間と″連帯″できるところである。
このように物質の中では″自由″と″独立″と″連帯″によって電子の行動がきまる。多くの電子は互いに相手を意識し、認め合い、そして協調しながら個性を失わずに動いている。これが多彩な物質の存在をもたらしている。
人間を電子に置き換えてみると、研究・教育の原点を物質の中の電子の動きに見た思いがする。没個性、画一化の波を止めるには、″自由″と″独立″と″連帯″を重んじ、速成、効率化を急ぐあまり、型にはめることを強いる現状を自ら反省し、多彩な人格、才能をもつ若者を個性豊かに育てていくことを目標に日々努力を続けていきたいと思う。
【執筆者紹介】
羽生隆昭・はにゅうたかあき
〔略歴〕
一九三四年 福島県原町市生まれ
一九五二年 福島県立原町高等学校卒業
一九五九年 東京都立大学理学部卒業
〔現在〕 東京都立大学理学部教授
研究室にて
〔近況〕
大学では、光物性実験の研究を行っている。自分の大学の研究室だけでなく、国の研究機関を利用して実験をすることがある。このようなときは、大学院生をつれて共同実験にでかけることになる。各大学からいろいろな院生が集まる。決まった期間内に成果をあげなくてはならないので、昼夜を問わず徹夜の実験を繰り返す。院生諸君の力のみせどころでもあり、彼らと寝食をともに過ごす教育効果のもっとも大きい貴重な機会である。このような体験を通して研究・教育とは何かを教えられながら、新しい気分で実りある時間を過ごさせてもらっている。