教育福島0198号(1996年(H08)10月)-033page
人間は弱い
県教育庁スポーツ健康課主任指導主事
小室忠夫
本格的推理小説はスポーツに似ているのでおもしろい。勝つか負けるか、一喜一憂する紙上ゲームである。
特に、森村誠一の推理小説が好きで、百五十五冊の本が、松本清張、島田一男、西村京太郎らを押しのけて本棚に並んでいる。
森村氏の作品は、今から二十年近く前に「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね」がモチーフの『人間の証明』を読んだのが始めである。
「棟居は人間を信じていなかった。そのように思いこんでいた。だが決め手をつかめないまま恭子に対決したとき、彼は彼女の心に賭けたのである。心の片隅で、やはり人間を信じていたのだ。恭子もまた、自分の中に人間の心が残っていることを証明するために、すべてを喪ったのである」代議士婦人八代恭子が黒人の息子ジョニー殺しを自供した部分である。
森村氏は「社会派」と言われることを嫌う。「私は、人間のドラマを描きたい」と言っている。その代表作が本書であろうと思う。
『歎異抄』という本の中で親驚は「性善説」と「性悪説」を説いている。「本質的に人間は善である。やむにやまれぬ環境で悪いことをするのだ。百姓一揆だってそうだ。一方人間はもともと邪まで悪い心を努力によって杭を打ち、頭が出ないようにしている」と説いている。
本書を読んで、私は「性弱説」を考えた。人間はもともと弱い、その弱さのために、どんどん悪い方向に入ってしまう人がいる。人間の美しさとは、少しでもその弱さを克服しようとする姿ではないか。
オレは強い、絶対に間違っていないという人間に会うと私はぞっとする。他人の心を認めない人で、友達にもなれなく、つまらない人だと思ってしまう。
強がらないで、ほんとうの自分の心に忠実になりたいと、一人になると思う。
本の名称:人間の証明
著者名:森村誠一
発行所:角川書店
発行年:初版一九七七年三月十日
生徒を正しく理解することの大切さ
県立小野高校教諭
歌川真克
私が抱いていた将来の夢は教師になることでした。その夢もかなえられ、新米教員として生徒と共に明け暮れています。今では教員としての視野もいくらか広くなり、あるとき孤独な生徒と出会う機会がありました。このような孤独な生徒に対し教師として何をしてやれるのか、そのすべもなく時がたつのみでした。ふとしたことから思い出したのが一冊の本「銀河鉄道の夜」でした。
この本の主人公ジョバンニは孤独な人間であった。父の不在、母の病気、同級生からのいじめなどが、自分自身を孤独という立場に追いやってしまったのである。しかし夢の中で一緒に旅をする親友は、ジョバンニの気持ちの良き理解者であった。旅を続けることにより孤独から開放されたジョバンニは、ものの見方、考え方や進むべき道を悟り、「すべてのひとびとの幸福」を求める決意を獲得する。孤独な生徒に対し教師としてどう援助すべきなのか、この本から大きな示唆を受けたような気がします。
教師として、今、何が必要なのか。それは、多くの悩みを持つ生徒の良き理解者でなければならないと考え、生徒を正しく理解することの大切さを改めて感じることができました。そのことによって初めて、生徒の内面に迫った指導と援助が可能であり、それができる教師を目指し努力しなければならないと考えております。
本の名称:銀河鉄道の夜
著者名:宮沢賢治
発行所:新潮社
発行年:平成元年六月十五日