教育福島0202号(1997年(H09)04月)-030page

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教育ひとロメモ

わかりやすい法令解説1)

判例紹介

 

一 はじめに

 

学校事故が起きた場合に、学校側や教員の管理・監督義務はどこまで問われるかの論議がなされるが、現場で指導にあたる教員にとっては、深いかかわりを持つ問題である。

そこで、今回は、中学校の野球部の外野ノック練習中に起きた事故について二審判決(平成元・一二・二一)などをもとに論点を紹介してみたい。

 

二 事実の概要

 

本件は、中学校野球部の春休み中の練習で、外野ノックのカバーの練習に参加していた二年生部員が、ちょっとわき見をしたときに外野ノックの打球を頭頂部に受け、外傷性脳内血腫及び外傷性てんかんが発症したものである。この日は、野球部の顧問教諭は練習に立会っていなかったが、数名の野球部OBが自主的に訪れていたという事故であった。このことについて、顧問教諭に監督上の過失があったとして損害賠償の請求がなされたものである。(国賠法第一条)

 

三 判決の経緯

 

一・二審ともに、原告らの損害賠償請求を棄却した。

理由として、

1) 任意参加の部活動であっても学校の教育活動の一環として行われるものであるから、顧問教諭には生徒を適切に指導監督すべき注意義務があることは当然である。しかし、このような部活動は生徒の自主性が尊重されるべきであり、事故の発生が具体的に予見される特別の事情がない限り、顧問教諭には個々の活動に常時立会い、監視指導する義務はないこと

2) 負傷した生徒の野球に関する一般的な知識や能力からみて、練習中にボールから目を離すと危険であることは十分理解できたはずであること

などをあげ、本件については、被害者本人の不注意が原因で、具体的に危険を予見できない事故であったとして過失責任を否定した。(二審で確定)

 

四 関連する判例

 

〈例1〉−−市立中学校の水泳部三年生が放課後の練習で逆飛び込みを行い、プールの底に頭を打って頸髄を損傷した事故につき、顧問教諭の過失を認め、市の損害賠償責任を認めた事例(横浜地裁判決、平四・三・九−−確定−−)

水泳部員にとっても逆飛び込みでプール底に頭を打つ危険性のあるプールでは、部長への口頭の指示ではなく、直接監督指導する義務があるとした。

〈例2〉−−市立中学校のテニス部一年生がテニス場整備のため、かけ足でローラーを引いていて転倒し、ローラーの下敷となって死亡した事故につき、顧問教諭の過失を認めたが、被害生徒の軽率さ(三割の過失相殺)も指摘し、市の損害賠償責任を認めた事例(静岡地裁判決、平成元・一〇・二)

ローラーは使い方によっては危険な用具で、注意指導の義務があり、生徒がかけ足で引いている実態を認識していないとした。

〈例3〉−−中学校の授業が終了した直後の教室で、生徒間のけんかにより殴られた生徒が死亡した事故につき、加害生徒の賠償責任は認めたが、教員に過失はないとした事例(大阪地裁判決、平成二・一一・七)

学校側には、生徒が下校するまでは保護監督義務があるが、事故発生の危険性を予知するような具体的事情がない状況では、教員に過失責任はないとした。

 

五 おわりに

 

児童生徒が在校している間や教育活動の一環として行われる部活動中などは、教師に保護監督の義務があるが、それは、親権者の監督責任のように全生活関係にわたるものではなく、学校の教育活動及びこれと密接不離の関係にある生活関係に限られる。

また、その義務の内容・程度も学校生活の時と場所、教育活動の性格(危険性の有無)、児童生徒の発達段階などによって異ってくるものと思われる。

これらのいろいろな事情を考慮した上で事故が、通常生じることが予想され、又は予測可能性のある場合に、それぞれの事例に応じて、教師の児童生徒に対する保護監督義務の責任が問われるのであろう。

 

 

 


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