教育福島0202号(1997年(H09)04月)-031page

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図書館コーナー

現代子供読書事情

 

"子供が本を読まなくなった"と言われてから大分久しく、それはひと昔(十年)前どころかもっと以前から言われ続けていることであり、これが今後どういう途を辿っていくのか社会環境の変化による影響も大きく、大いに心配されているところです。

最近になってようやく、子供と本、あるいは子供と読書の間柄を良くしようという運動が起こり、作家井上ひさし氏が会長を務める『こどもと本の出会いの会』、文部省が中心になり、作家石ノ森章太郎・角野栄子両氏が参加している『児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議』、元文部大臣鳩山邦夫衆議院議員を会長とする『こどもと本の議員連盟』などが発足しました。また文部省でも「学校図書館整備五カ年計」を発表し、世を挙げて子供の読書活動の向上のための動きが見え始めてきました。

さて、実際子供は本当に本を読まなくなっているのでしょうか。毎号六〇〇万部を発行すると言われている「少年ジャンプ」や、人気の「コロコロコミック」などのコミック類、ファミコンやゲーム系の専門雑誌、ジュニア小説類の売上部数を見ると、最近の子供たちが本に接していないとは決して言えません。"読書離れ"と言われているのは、いわゆる「児童文学」として括られる分野の本と、その周辺を指しているのではないでしょうか。

昔、"ポストの数ほど図書館を"と言われた時代がありました。今それが叶ったとは言えないまでも、ここ十年間の図書館建設状況には目を見張るものがあります。また児童図書関係の出版も年間三、○○○タイトルを越えています。現代の子供たちの読書環境は整っているはずなのに"読書離れ"は進んでいます。学年が進むにつれてその読書量は減少し、特に男子生徒には著しい状況となっています。

子供たちの回りには、読書以外にもファミコンやTVゲームなど、異った余暇の過ごし方が見られ、また学習塾に代表される学外学習活動は、子供たちを時間的にも精神的にも余裕のない状況にしているともいえます。

しかし、現実には本好きな子供はたくさんいますし、たくさんの本も読んでいます。子供は決して本が嫌いではないのです。むしろ今は、"読む子"と"読まない子"の差が大きくなっている事実を、課題として考えるべきなのです。また、"洗礼本"と呼ばれる、言わば成長の段階で誰もが必ずというほど読んだ『野口英世』『二十四の瞳』などの作品を、それ読書傾向から見ることが少なくなりました。それは読書傾向の変化だけではなく、図書の出版数の多さによる選択の拡散現象にもよります。今の大人たちは子供たちの読む本が見えなくなっています。

子供を本好きにするためには、一方向からの努力だけでは叶いません。様々な要因が適切に関わり合うことが必要となります。本を作る人には、『物語の面白さで子供を引きつける作品づくりと、子供たちへのこんな本ありますという積極的なお知らせ』をお願いするところですし、学校や自治体には、『子供たちが一人でも行ける図書館(室)造りと、新しい本・楽しい本の充実。そしてこれもまた子供たちに紹介する努力』をお願いします。そして最後にお母さん方には、『本を読む姿を子供たちに見せるか、一緒に楽しむこと』をお願いします。今のお母さん方は、いわゆる"本を読まなくなった"と言われ始めた頃の子供たちかもしれません。子供たちと一緒に、思う存分読書をたのしんでみるのも一考かと思います。

読書が生活の一部となれるよう、そして児童文学も楽しめマンガも読めるような、幅広く、そしてしっかりと根づいた本との関係を、子供たちに望みたいと思います。

最後に、ある児童文学者が《子供を本好きにするのは簡単な事だ。本を読むのを禁止すればいい》と、逆説的な言い方をしていたのを思いだしました。

 

 

 


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