教育福島0204号(1997年(H09)07月)-031page
的具体的な経験を積み重ねながら、望ましい成長の基礎となる豊かな心情、物事に自分からかかわろうとする態度や、健全な生活を営むために必要な態度などが培かわれていくように努力がなされている。しかし、「何を経験させたいか」という思いが優先してしまったり、目の前の幼児の表面的な姿に流されて、学級の中のすべての幼児一人一人の育とうとしているものが見えなくなってしまったりする状況も見られている。
2 幼稚園教育の基本
幼稚園教育要領には「幼稚園教育は、幼児期の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする」とあるが、幼稚園では、幼児が生活の自然な流れの中で周囲の環境に自ら興味をもってかかわり、様々な活動を展開する中で、よさや可能性を発揮できるようにしていかなければならない。
今、学校教育は、二十一世紀を目指し、社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を図ることが、基本的なねらいとして進められている。学校教育の出発点として、幼稚園でも一人一人が自分らしさを発揮し、意欲をもって取り組む主体的な態度・思考力・判断力・表現力などを育てるための基礎づくりの時期であることを踏まえ、その教育の在り方を考える必要がある。
このようなことから幼稚園では学校教育としての教育の内容に基づいた環境を作り出し、望ましい方向に向かって幼児の発達を促すようにしていかなければならない。自らも環境であるが、幼児の周囲に環境を通して様々な状況を作り出していく教師の役割の重要性も考えたい。
3 指導の充実
幼児が環境にかかわり、主体的な遊びを通して健全な自立ができるようにし、人間に対する信頼感や物事への興味・関心、運動的な機能、豊かなイメージ、課題を乗り越えようとする力などが育っていけるように発達の特性を捉えながら指導を工夫しなければならない。一人一人の幼児が充実した日を送り、遊びを通して心の世界を広げ、考え、挫折や葛藤を自分の力で乗り越えていかれるよう生活の流れを大事にしながら幼児と向き合っていかなければならない。
(1) 計画性
幼児の望ましい発達を助長するためには、どのような経験がどのような発達を生み出しているのかを自園の実態に基づいて明らかにし、それぞれの幼稚園が創意ある教育課程を編成し、教育目標の具現化を図っていかなければならない。そして、教育課程との関連や幼児の長期的な発達を見通し、幼児の生活する姿を踏まえた具体的なねらいと内容を明確にして、指導計画を作成しなければならない。その際、大切なことは、幼児の発達する姿を理解し、日常の保育を反省・評価していく日々の積み重ねである。保育の記録を手がかりとしながら幼児の側に立った指導計画が立てられるようにしなければならない。
(2) 共感的な理解
幼児の表面的な動きばかりに目を奪われることなく幼児の中に育っている内面を見極め、育とうとしているものは何であるのか見つめる努力をすることが大切である。保育者はこのような経験をさせたいと、引っ張ったり、このような姿が望ましいと画一的な理想を押しつけるのではなく、「この子は、今、こうなのか」と、そのままの姿を受け入れていくことが大切である。一人一人をかけがえのない存在として心を寄せ、受け入れ、温かく見守っていくことが大切である。
(3) 一人一人のよさを認め生かす
一人一人の幼児が何に興味をもち何がその子に育っているのか、どのような発達の流れの中で今の遊びに取り組んでいるのかといった心情や意欲・態度を確かめながら援助していくことが大切である。
発達する姿が、それぞれに異なっていて興味や関心のもち方も異なっている幼児に対して、一人一人のその子らしさや特性を十分理解して、そのよさが十分に伸ばされたり発揮できるようにしたりする状況を作り出していくことが大切である。保育者のそのような気持ちや態度が学級や幼稚園内で相手を尊重していくような姿を引き出すことにもなっていくと思われる。ただし、三歳から四歳前半にかけては自分の世界だけの遊びを楽しむことが大切であるのでそのような姿を急いで目指すことはないと思われる。
(4) 家庭・地域との連携
学校週五日制の月二回実施に伴い家庭や地域との生活の流れを考え、連携を図ることが求められている。
保育の場を地域に広げ、自然や文化、人材を環境に取り入れたり、小学校との連携が図れるようにしていくことも大切である。
どのような場合も、「幼児にとって、今、何が大切なのか。何が育とうとしているのか」を判断しながら進めていくことが大切である。