教育福島0205号(1997年(H09)09月)-038page

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心に残る一冊の本

 

指導者の資質とは

県立川口高等学校長

懸田弘訓

 

とあるという。ユリウス・カエサル、英語でいうジュリアス・シーザーである。

 

イタリアの普通高校で使われている教科書に、「指導者に求められる資質は、次の五つである。知性、説得力、肉体上の耐久力、自己制御の能力、持続する意思。カエサルだけが、このすべてを持っていた」とあるという。ユリウス・カエサル、英語でいうジュリアス・シーザーである。

長年、イタリアの歴史に取り組んできた作家の塩野七生は、三千年の西洋史の中で「極めつきのいい男」であるという。彼女は、カエサルを柱にすえた『ローマ人の物語』全十五巻を執筆中で、内六巻がすでに刊行された。小生にとって近年これほど魅せられた書はない。

カエサルは生涯をとおして、絶望的になっても機嫌を損ねず、楽天的でいられた。それはゆるぎない自信があったからである。男にとって最初に自負心をもたらしてくれるのは母親で、幼児に母の愛が満たされれば、人は自然に、自信に裏打ちされたバランス感覚も会得し、未来に眼を向ける積極性も知らずのうちに身につけてくるというのである。

彼はまた、総司令官として十三年も戦い続けるが、七倍の敵にも勝っている。常に入手した情報だけに頼らずに創造力を働かせて先を読み、戦いの定石は守りつつも、状況によっては前例のない発想もした。戦いは、七割方準備で決まるともいった。彼はまた「人間には全員に真実が見えるわけではない。その人が見たいと思う真実きり見えない」といっている。われわれには、自分が真実と思うこときり見えないことが多い。ローマを改革し、その再生を果たしたカエサルは、見たくない真実をも的確に見通せたのである。

これは単なるローマの歴史書ではなく、人を動かし、指導にあたる教師にとって、またこれからの日本の将来を考える上でも多くの示唆を与えてくれる名著である。

 

本の名称:ローマ人の物語

著者名:塩野七生

発行所:新潮社

発行年:1)巻一九九二年七月七日 以下年一冊の割で続刊、6)巻刊行ずみ

本コード:ISBN 四-一〇-三〇九六一〇-一

 

スタンド・バイ・ミー

福島県立図書館主任司書

木伏幸子

 

それは少年たちのたわいもない興味から始まった。

 

それは少年たちのたわいもない興味から始まった。

少年の一人がおばあさんのお葬式に行ったときの様子を話し始めると、そこには知らないこと、驚くことがたくさんあった。ついに少年たちは、『死んだ人が見てみたい!』と、近くに一人で暮らすおじいさんがいつ死ぬかを見張ることになるのだが…。

この作品には、初夏から秋口にかけての、少年たちと孤独な老人との心の交流が描かれているが、彼らを取り巻くその風景描写は、不思議と幼き日の自分の夏の姿を思い出させ、内容そのものの季節感とはまた別の味わいで、心の奥の遠い夏を仄かに甦らせてくれる一冊となっている。

少年たちは、中学受験を控える小学六年生であるが、多感なこの時期、一人の人間との出会いにより、精神的に成長し変わっていく彼らの姿は、物語の素晴らしさもさることながら、このところの、思わず目や耳を疑うばかりの少年たちによる事件報道と相まって、人と人とのふれあいの中でこそ養われていく心の豊かさを、改めて思い起こさせてくれる。

さて、密かにおじいさんを見ていた少年たちも、ふとしたことで気づかれ、話をするようになる。おじいさんは戦争の事を、少年たちは受験や将来の事などを話し、その親密さを徐々に深めていく。おじいさんも生き甲斐をとり戻していく。しかし夏の終わり、少年たちがおじいさんのために蒔いたコスモスで庭が満開になる前に死んでしまう。少年たちはおじいさんの死から生きる事の大切さを学ぶ。それは、夏の初め彼らが抱いた小さな興味が、コスモスのように花開いた瞬間であったと言える。

この作品には、-The Friends-という副題が付いている。この作品に出会ってから、友だちという言葉の持つ、その意味の重さを忘れることはない。

 

本の名称:夏の庭 -The Friends-

著者名:湯本香樹実

発行所:福武書店

発行年:一九九二年

本コード:ISBN 四-八二八八-五〇〇一-五

 

 

 


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