教育福島0206号(1997年(H09)10月)-022page

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(3) 文化の振興

 

近代和風建築総合調査について

本県において、文化財保護法及び県文化財保護条例に基づいて指定された文化財のうち、建造物については、国宝が一件(白水阿弥陀堂)、国指定の重要文化財が二十八件、県指定重要文化財が三十八件となっています。そしてそのほとんどが明治時代以前に建立されたものです(国宝は平安時代の建立であり、国指定重要文化財では二十八件のうち二十五件が、県指定重要文化財では三十八件のうち三十三件が明治以前に建立されたものです)。

また、明治以降の建造物で指定されているものはほとんどが洋風建築です(国指定の三件はすべて、県指定の五件のうち三件は洋風建築です)。和風建築としては旧広瀬座と開成館しかありません。開成館は記録では西洋造とありますが、小屋組などは在来手法であり、ここでは和風建築に数えます。つまり、近代以降の建築では、洋風建築では民家を含めて指定文化財になりやすいのに対して、和風建築は旧広瀬座や開成館など特殊な公共的建築物以外は指定文化財になりにくく、そのため文化財として保護されにくい面がありました。

昭和五十五年に東京都千代田区など五つの区で文化財として価値を有する建造物の調査をしたところ千十六件が残っていましたが、十年後の平成二年にはそのうち五百三十九件が消失してしまったことが確認されました。その消失率は五三・一%という高い数字でした。

本調査はこうした背景を踏まえ、これまであまり顧みられることがなく、そのうえ急速に失われつつある近代和風建築について、その所在地、形態、意匠及び保存状況を調査記録してその実態を把握するとともに、保存対策に資することを目的にしています。なお、ここでいう近代和風建築とは、概ね明治以降、終戦時までに伝統的技法及び意匠を用いて作られた住宅・公共建築・宗教建築をいいます。

調査は文化庁の補助事業として平成八・九年度の二ヵ年の事業としてスタートしました。

まず、県文化財保護審議会委員の草野和夫東北工業大学教授を調査委員長に、三名の調査委員と十五名の調査員からなる調査委員会を組織しました。調査委員のほとんどは、福島県建築士会の協力により県内の建築士の方にお願いしました。

調査に入る前に、市町村教育委員会に依頼し、該当建造物の所在確認調査を実施しました。この市町村教育委員会提出分と東北工業大学研究室の基礎調査により合わせて九百二十五件がリストアップされました。

平成八年度は、第一次調査と第二次調査を実施しました。

第一次調査では、基礎調査に基づき、比較的規模が大きいと判断され、写真などから見て改造が少ないと判断された三百七十七件の重要遺構を選定し、建築士会に委託して所定の調査票に必要事項を記入し、写真を添付して提出していただきました。

続いて第二次調査に入りました。ここでは、第一次調査票などから、建築的に質の高いもの、従来ほとんど調査されていない料亭・旅館・別荘など、近世建築に見られない特徴をもつもの(洋風の一部採用)、比較的建築当時の姿をとどめているもの、などの観点から百十五件を選び、平面図作成に必要な実測と写真の撮影を行いました。

 

迎賓館「梅の間」

 

迎賓館「梅の間」

 

今年度は、調査委員による第三次調査を行いました。ここでは、第二次調査に基づいて、記録作成の必要と認められる三十六件について、実測図の作成と記録写真の撮影、所有者からの聞き取り調査などを行いました。調査に入った市町村は、九市七町一村に及びました。

事務局も調査に同行し、調査委員の先生方の話を聞きながら、素晴らしい和風建築の技術の粋を堪能することができました。四方柾目の杉材の柱や木目にあった釘隠、紫檀や黒柿を使った床がまち、欅棒の床板、書院障子棧の組子模様や欄間の透かし彫りの意匠など、思わず立ち止まり、見惚れてしまう場面もしばしばありました。

こうして予定していた調査は終了し、調査の結果は今年度末に刊行される調査報告書にまとめられます。

近代和風建築は、そのほとんどが現在も生活に使っている住宅です。昨年秋から始まりました登録文化財制度は、規制の厳しい指定制度とは違って、所有者の生活と文化財の保護を両立させようとする制度です。私たちの誇りである伝統的な技法に基づくこうした建築物を後世に残したいものです。

 

 

 


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