教育福島0207号(1997年(H09)11月)-034page

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心に残る一冊の本

 

もうひとつの旅

(前)県立安積高等学校長 

安原滋

 

しなければならない。機内で読もうと思い、たまたま手に入れたのがこの本だ。

 

二月末から三月初めにかけて、エジプトを旅した。日程の都合で南回りのエジプト航空に乗ることになったが、二十時間程、機内でブロイラー状態になることを覚悟しなければならない。機内で読もうと思い、たまたま手に入れたのがこの本だ。

エジプトのピラミッド-古代の遺物の中で世界の七不思議の筆頭にあげられ、しかも現存する唯一の建造物-。その築造目的については、王墓説をはじめ、葬祭神殿説、日時計説、天文観測所説、タイム・カプセル説など、諸説があり、そのスケールの大きさ、精度の高い施工技術、絶妙なバランスを保つ重力構造などから、古来、神秘とロマンに包まれた存在として人々を魅了してきた。

視覚デザインの研究者である著者は、エジプト専門の学者と違い、独特の視点から、「ピラミッドの謎」に取り組んでいる。

ナイル東岸に山地、西岸に平坦な砂漠というエジプトの地勢、ナイルの流れに沿って下流西岸一帯に集中しているピラミッドの配置とその形状、恒常的に繰り返すナイルの氾濫と、それがもたらす肥沃な泥土の堆積による農耕地の確保といった点を考え合わせ、ピラミッドは、ナイルの治水と利水の目的で造られたとしている。

波打ち際に沿って並ぶ『テトラポッド』が、発想の原点というのも面白い。海と川、砂浜と砂漠、似通った幾何学的立体を通して、夢が楽しく膨らんでいく。

世界最古の石造建築物=サッカラの階段ピラミッドの丘に立ち、南北に霞んで並ぶ大小のピラミッド群を見ると、今は亡きナセル大統領が、アスワン・ハイ・ダムを『二十一世紀のピラミッド』と呼んでたことが偲ばれる。

「ピラミッドの謎」が解明された訳ではないが、この本は、四千年の時空を超え、我々を知的ロマンスの旅へいざなってくれる。

本の名称:ピラミッドはなぜつくられたか

著者名:高津道昭

発行所:新潮社

発行年:一九九二年六月十五日

本コード:ISBN 四-一〇-六〇〇四二四-〇

 

子供の生命と向きあい

子供から学ぶ

福島県養護教育センター事業部長

穴澤由美

 

る。教育は、こんな一人一人の学びにきちんと応える責務があると私は考える。

 

教室の中には、教師の説明を「すぐ理解する子、じっくり考える子、なかなか理解できない子」と様々な子がいる。教育は、こんな一人一人の学びにきちんと応える責務があると私は考える。

テスト等によってなされる学力の評価は、子供の学びの評価ではなく、自分の指導力の評価と受け止める教師は何人いるだろうか。

わたしたちは、ややもすると学習塾や予習を前提に授業を展開し、それについていけない子は本人の努力不足ということで片付けている場合がないだろうか。

人は、元来誰でも学びに対する希求をもっているものである。それが、学年が進むにしたがって全く興味を示さなくなったり、逃げようとさえする子も出てくる。これは、教育環境の貧弱さからくるものではないだろうかと考える。

我々教師は、子供一人一人の人格を尊重し、子供と真剣に向き合い、共に学びあう謙虚さをもたなければならない。そして、子供一人一人のもっている特性や個性を十分踏まえた上で、その子の希求に誠実に応えることができたとき、子供は心の深いところがら学ぶことへの喜びを知り、更に学びたいという願いをもつものと考える。

こんな考えを支え、自分の教育理念に確かな力を与えてくれた著書に『教えることと学ぶこと』がある。これは、林竹二氏と灰谷健二郎氏の対談である。両人は、子供への限りない愛と優しさをもち、見事な教育実践・を数多くされていることではよく知られている。

この著書には、「障害児とともに学ぶ中で子供たちが『人にやさしくすることは、自分がかわっていくのでとくをする』といったこと」や「重い障害のある子から『心の豊かさ』について学んだこと」、「切り捨てられ、選別された子が、林氏の授業を受けて学ぶことの真の喜びを見いだしたこと」等が、熱く語られている。また、『教えるということは、子供が何かを学んだときに完結する』という一節がある。謙虚に耳を傾けたい。

本の名称:教えることと学ぶこと

著者名:林竹二・灰谷健二郎

発行所:蒲マ書房

発行年:平成八年十二月十五日

本コード:ISBN 九四七七一一-〇一-九

 

 

 


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