教育福島0208号(1998年(H10)01月)-030page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

福島県公共図書館の動向

 

昨年度の県内公共図書館における図書の貸出総数は、前年度に比べ二十万冊を超える増加が見られました。しかし、統計結果を調べてみると、ただ喜んでばかりはいられない状況であることが分かってきます。

その第一は、市立図書館の多くが資料費や貸出冊数など実績を伸ばしているのに対し、町村立図書館では、新設図書館以外のほとんどが実績を低下させていることがあります。規模が小さいゆえに全体の数値には現れてきませんが、実はこれが深刻な問題なのです。そればなぜか?実はこの原因として、児童の利用減少があると考えられるからです。

かねてから言われてきた児童の読書離れですが、図書館の統計上、今まで明確な形では出てきませんでしたが、ここ二年程の実績ではかなり顕著になってきました。今まで、町村立図書館における利用実績の大部分は、児童の利用で支えられてきたと言っても過言ではありません。ここに来て児童の利用登録者や貸出冊数の減少は、町村立図書館全体の貸出不振の原因ともなっているのです。

市立図書館では、成人の利用が大幅に伸びており、児童の減少をカバーして余りある状態なのですが、児童を利用者の主体としてきた町村の図書館ではかなりの痛手で、成人の利用も伸びてはいるものの、全体の割合から見ると到底カバーしきれない状況なのです。

また、次に困ったこととして、自動車図書館や団体貸出など、図書館職員が外に出て行うサービスまでも落ち込んでいるという事実があります。この出て行くサービスは、本館と比べれば遥に少ない資料と、限られた時間の中で行っています。しかし、利用者の要求は年々多様化し、これに職員不足などの要因が加わったことが不振の原因となっていますが、児童の行動範囲の狭さや貸出の低下に加え、今後容易に予想される高齢社会へのサービス強化、あるいはまた、単に資料の貸出という行為にとどまらず、広報や利用動向の調査、新規利用者の開拓など、重要な役割を持つ出前サービスの再考は、必要不可欠であると考えます。それには、それぞれの自治体に合った工夫も必要となるでしょう。

さらに資料費についても、このところ持ち直しているとはいえ、五年前と比べると、住民一人当たりで二十五円も低い状況となっています。全体の貸出が伸びたからといって、決して安心できる状態ではないのです。

さて今度は喜ばしい点をご紹介しますが、まずは先ほども述べたとおり、図書館での成人の利用が伸びてきていること、そして、公民館図書室が久々に利用を伸ばしてきていることが挙げられると思います。

公民館図書室は、徐々に図書館が設置されていく状況の中で、図書館との格差が次第に大きくなるとともに、年々利用を低下させてきました。しかし時代を反映してか、近年新しく造られる公民館は、広くて明るい図書室を持つようになりましたし、活動面においても、ボランティアの支援でお話会を行ったり、親子読書教室を開催するなど、公民館ならではの利用の掘り起こしを行っています。

また図書館では、資料の多様化に対しそろえ始めた雑誌や視聴覚などの資料が、次第に厚みを増してきましたし、予約サービスや相互貸借の実績も、各館ともに伸ばしています。

昨年十二月に開館した大熊町図書館は、町の規模に照らせば、県内では画期的な広さと蔵書を持つ図書館で、僅か四ヵ月の間で、他の町村図書館の一年間に相当する貸出を記録しました。これは先進図書館にも匹敵する実績であり、これからの図書館・公民館建設も楽しみとなってくるわけですが、施設や蔵書だけではなく、それをどう活かすかということも大切になってきます。そのためには、学校との連携協力の強化や、調査相談、読書案内など様々なサービスの充実とともに、学校図書館の整備、図書館司書の資質向上などについても、併せて考え解決していくことが必要であり、そして、みんなが共通の認識に立てたとき、福島県の図書館活動が本物になることでしょう。そして、そういう日の来ることも、そう遠いことではないはずです。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。