教育福島0213号(1998年(H10)09月)-035page
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全力をつくそう そこに夢が…
二本松市立平石小学校教頭
田村良江
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十数年前、「愛、深き淵より」を読んで熱く心を打たれた。今、この本を再び手にし、星野さんの生き方や母親のひたむきな愛に、以前にも増して深い感動を覚える。
星野さんが大学を卒業し、中学校の教師になって二ヵ月。希望と夢に胸を膨らませていただろう時、器械体操をしていて不慮の事故にあい、肩から下がすべて麻痺という障害を背負ってしまった。その瞬間から、手も足も体も動かないうえに、全く感覚もない状態になってしまったのである。やがて、この絶望的な身体で唯一動かせる口に筆をくわえ、詩や絵を描くまでになる。何と言っても、残された自分の能力を最大限に発揮することによって、深い淵から自分を生かす道を見つけていく姿に感動し、心が熱くなる。星野さんの生き方と心の強さに。
「最初は不可能と見える技がなぜできるようになったかというと、やさしい技を繰り返す基礎からやり始めたからである。(略)口で字を書くことだって同じではないか」と、星野さんが自分の可能性を信じ、自分の生き方を切り拓く姿には人間としての尊厳を感じる。この生き方を支えたのは一途で献身的は母親。どんな時にも息子を思い、支え続ける母親の深い愛なくしては、詩や絵を描くことが実現しなかっただろう。
この本を読んで、ノンフィクションだけに同時代に生きる人間として、私なりに自分の生き方を見つめ直す機会となった。五体満足で健康な私は、「ないものねだり」をして不幸や不遇を嘆いてないか、「あるもの」を最大限に生かしているか、相手のよさを見いだし支え続けているかと問い直してみる。一人一人の子供が自分の能力を最大限に発揮し生き抜いてほしいという思いから、私は卒業生に贈る言葉を書く。「全力をつくそう、そこに夢が生まれる」と…。
本の名称:愛、深き淵(ふち)より
著者名:星野富弘
発行所:立風書房
発行年:一九八一年一月十日
おとうと
県立いわき海星高等学校教諭
高田文子
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私には三才年下の弟がいます。進学・就職のため、もう六年間も離れて暮らしています。この六年という年月は、それぞれにとって、大きな変化の時期でもありました。たまに会う時の弟は、私が見ても少年から大人へと変容していくのが目に見えてわかり、淋しささえ感じるのでした。そのような時期に出会ったのが、「おとうと」という本です。私なりに、弟のことをあれこれ心配していたこともあり、この題名に強くひかれたのでした。
この本の主人公である姉の"げん"と弟の"碧郎"も年が三つ離れています。二人には、奇妙なくらい似ているところがありません。"げん"は真面目のかたまりで、常に周囲の人たちに気を使って生きています。一方"碧郎"ときたら、本能のままやりたい放題で、周囲の人々は彼に振り回されているという有様です。こんな二人ですが、"げん"が、
「碧郎の気持ちは手に取るようにわかる」
と言うように、お互いのことはよく理解し合っています。
兄弟というものはつくづく不思議な関係だと思います。友人関係などとは違って、お互い共通点がなかったり、気の合うところがなくとも、兄弟とは許し合える存在であり、一体化している存在でもあるのです。
それゆえに"げん"も私も、弟が急に大人びたことを言ったりすると、彼が自分から離れていくような感じを覚え、淋しくなるのです。
"げん"はこの本の作者である幸田文自身です。この本からは、作者の弟への深い愛情が伝わってきます。私はこの本によって、私と弟との関わりについて考えさせられました。
本の名称:おとうと
著者名:幸田文
発行所:(株)新潮社
発行年:一九六八年三月三〇日
本コード:ISBN
四-一〇-一一一六〇三-二 CO一九三
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