教育福島0215号(1998年(H10)11月)-008page
本を創る
福島県文化功労賞受賞者
阿部隆一
平成十年度の福島県文化功労賞の受賞に際し、県民の皆様に深く感謝を申し上げます。
私は、人生の途中で本を創るという事に大変興味を覚え、今では本のない生活など考えられない日々を過ごしております。
本を創るという事は大変に難しいものであります。今まで四百余りの本を出版してまいりましたが、満足の出来る、完璧な本は一冊もないと言っても過言ではありません。
本は、読者や社会に大きな影響を与えるものですから、非常に神経を使います。様々な事を考慮しながら、企画を練りに練って本が世に出るのです。そのような仕事を繰り返しておりますと、本を出版する事と、人が成長して世に出るという事は大変似ていると思う時があります。
人は、母親のお腹で十ヶ月間育った後、世に出て名前を与えられ、成長して社会人として世の中の役に立つ仕事をします。
本も同じく、編集者の手で何ヶ月も構想が練られます。そして題名が決まり出版され、書店の本棚に並べられ、人々がそれを手にした時、初めて世に出て社会の役に立つと言えるのです。
人が皆、使命や役割が違う様に、本も様々な目的のもとに創られます。それらを考え、色々な角度から検討して本を創らなければならないと、日々の仕事の中で自分自身に言い聞かせております。
そうして出来上がった本たちは、手間がかかった分だけ、悩んだ分だけ感慨深く、愛しく感じられます。その想いが