教育福島0215号(1998年(H10)11月)-031page

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教育ひとロメモ

わかりやすい教育法令解説

学校事故と民事上の責任

 

一、はじめに

 

「学校事故」という用語は法令等で規定されたものではないことから定説はありませんが、通常「学校教育活動中に、教員等当該教育活動の実施について責任を有する者の故意若しくは過失により生じた、又は学校の施設設備の設置・管理の暇疵が原因で生じた児童・生徒等の負傷や死亡事故」ということができます。

このような学校事故が発生すると法律上の責任の問題が生じてきます。現行法上の責任としては、1)民事上の責任、2)刑事上の責任、3)行政上の責任の三つに大別されます。

今回は、民事上の責任について概略述べてみます。

 

二、民事上の責任

 

(一) 教職員の不法行為に基づくもの

これは、教職員の不法行為に起因する第三者の損害を賠償するという内容の責任です。

国家賠償法第一条第一項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定しています。(故意とは、一定の結果の発生とそれが違法であることを知りながらあえてある行為をすること、過失とは、普通に尽くさなければならない注意を怠ることをいう。)

教育活動が「公権力の行使」にあたるかどうかについては、かつて問題とされていましたが、最高裁判所は、横浜市立中山中プール飛び込み事故の上告審(最高裁第二小法廷昭六二・二・六判決)において「公権力の行使には、公立学校における教師の教育活動も含まれると解するのが相当」と示しました。公立学校の教育活動に伴って生じる事故に国家賠償法第一条の適用を肯定するのが今日一般判例の見解です。

なお、公務員に故意又は重過失があったときは、国又は地方公共団体は当該公務員に対して求償権を有すること(同条第二項)に留意する必要があります。(重過失とは軽過失に対する概念であって、著しく注意を欠いた状態をいう。)

また、民事上の責任については、国家賠償法のほか、民法の不法行為(故意又は過失により違法に他人の権利を侵害すること)に基づく賠償責任があります。

事例としては、中学校の体育授業中に生徒が跳び箱運動の前方倒立回転跳びの試技に失敗し負傷した事故(静岡地裁富士支部平二・三・六判決、責任肯定)、高校のラグビー部員が夏季合宿中に社会人との練習試合でスクラムを組もうとした際に首を激突させ負傷した事故(福岡地裁昭六二・一〇・二三判決、責任肯定)等があります。

 

(二) 学校の施設設備の設置・管理の瑕疵に基づく場合

国家賠償法第二条は、学校の校舎等の建物及びその付属施設、運動施設等の設置・管理の瑕疵に基づく損害の賠償責任について国又は地方公共団体が責に任ずる旨規定しています。(瑕疵とは、本来備えるべき安全性を欠いていることを意味します。)

事例としては、中学校校舎二階の窓付近で同級生とふざけあっていた生徒が窓の外側に押されて転落し負傷した事故(松山地裁八幡浜支部昭六〇・一・二五判決、窓の管理瑕疵肯定)、高校のテニス部員が練習中球拾いに行った際に近くで練習していた陸上部員の投げた砲丸を頭に受けて負傷した事故(大阪地裁昭五二・九・一三判決、テニスコートの設置・管理瑕庇肯定)等があります。

 

三、おわりに

 

損害賠償責任の発生は、教職員の故意・過失があることが前提となり、問題となるのは大部分が過失です。教職員の過失とは何か、換言すれば教職員にはどのような注意義務が課せられているのかの理解が重要であり、活発な教育活動を進める上から必要であります。

 

 

 


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