教育福島0216号(1999年(H11)01月)-045page
図書館コーナー
読書と図書館
「人はなぜ本を読むのだろうか」
皆さんは、以前にこのような疑問を抱いたことはないだろうか。
面倒で、目も頭も疲れる本を読むという行為は、一見苦痛以外の何者でもない様に思われるのだが、現在、世の中には文字が溢れ、多くのメディアの出現にもかかわらず、本の出版はまったく衰えを見せない。
図書館情報大学より出されている『知の銀河系 第一集』では、「本を読む」という行為の目的を大きく次の五つに体系付けている。
1) 気分転換・好奇心のため
2) 考え方・生き方を知るため
3) 感性を磨くため
4) 知識を得るため
5) 疑似体験をするため
人間には、本来知的好奇心というものがある。人間にとって未知なることを知りたいと思うのは本能なのである。
そして、この本能を最も簡単に満たしてくれるのが、「本を読む」という行為である。
自分は何のために生きているのか、本当にこのままの生活で良いのだろうか。
その回答を得るため、人は旅をしたり、社会に出ていろいろな人と出会おうとする。
しかし、それでも毎日の生活の中に埋没し、再び同じ事を自問自答するのである。
そして、やがて自問自答さえもしなくなると、人は好奇心をなくし、ただ漫然と時を過ごすだけの存在になってしまう。
だから、人は知的好奇心を持った人に対して魅力や憧れを感じるし、そういう人たちはとても元気がよくみえるのである。
また、人は常々知的欲求不満を感じている。ど忘れしてどうしても思い出せない時のイライラ感は誰もが経験していることである。
しかし、それでも人は多くのことをそのまま置き去りにして、いつの間にか知るという行為は面倒くさいことと思うようになり、いつの間にか好奇心を失っていくのである。
読書離れが、読書体験の少なさと環境不備が原因といわれるのも頷ける話である。
さて、前段が長くなってしまったが、これらのことを前提に図書館について考えてみると、まさにその役割が見えてくる。
それは、人が簡単に必要な情報を入手でき、知的好奇心を育てていきやすい社会環境を創造していくことである。
そこで、公共図書館と公民館図書室の奉仕対象人口当たりの貸出冊数であるが、これをみると図書館の総貸出冊数は、平成元年には人口一人当たり二冊をやっと超えたところだったのが、昨年度実績では二・九四冊となっていて、文部省が掲げている人口一人当たり個人貸出冊数三冊の目標に近づいている。そして、さらに注目したいのが予約受付件数の急増である。平成元年の二万件弱の数字が昨年度は七万五千件を超えている。
利用者が、ただ図書館にある本を借りていくのではなく、自分からこういう本が読みたいと意志表示をし始めているのである。
それに比べると公民館図書室では、貸出が〇.五冊台から浮上する気配がない。
公民館図書室が読書施設としても十分な機能を果たしていないのに対して、図書館は情報提供機関として、地域住民の知的好奇心を喚起しているのである。
『文化は金食い虫だ』といわれる。当然、図書館もその一つとして考えられているが、文化が栄えると社会が栄え、文化が衰えると社会が衰退することはこれまでの歴史が証明している。
日本が、これまで欧米と肩を並べるようにしてこれたのも、模倣ではあっても欧米文化をいち早く取り入れたことに依るのである。
図書館は文化施設といっても、日頃人々が生活していく上で必要な情報を提供する地域に根ざした施設である。そしてまた、地域の人たちの知的要求に応えるところでもある。
日本の図書館はまだ未熟である。しかし、これが本当の役割を果たすようになった時、きっとそこには元気で明るい人々が暮らす、活気溢れた街が形成されていることだろう。