教育福島0217号(1999年(H11)02月)-023page
随想
日々の想い
ずいそう
思いは届く
富樫実
二ラウンド目のゴングが鳴った。よし、連打だ。ボディを打て!
「ストップ」
「一・二・三〜七・八」
(レフリーが相手選手をみる)
「ボックス(試合開始)」
「ストップ」(二度目のダウン)“よっしゃ! 先生、勝った。あんなに強い相手に勝てました”彼の顔は汗と涙でぐしゃぐしゃだった。そうだ、おまえがチャンピオンだ。良くやった。すばらしい試合だった。彼は今年の新入大会ボクシング競技フェザー級(一年生の部)で優勝した。
試合内容はいずれの試合も一Rは劣勢だった。この日の決勝も、相手のリードが顔面に入る。頭が大きく後ろに跳ねる。しかし二Rからは、リードから左右のコンビネーションが決まりだし、得意のボディが相手のわき腹をえぐる。ハードパンチャーである彼の左右がまともに入ればリングに立っていられる選手はいない。
試合前からあの相手には絶対に勝てないだろうと誰もが思っていた。もしかしたら彼自身もそう思っていたかもしれない。でも、結果は違った。絶対に勝てないと思っていた相手に二度もダウンを奪って勝てたのである。
入部したての頃、彼に“どうすれば強くなれますか?”と聞かれたことがあった。“まず基本をしっかり身につけてから、スタミナをつけるための練習をしなければならない。だいたいの生徒はここで辞めるだろう。なぜ辞めるかわかるか。それは気持ちが入っていないからだ。ボクシングは見た目は派手だけど、練習はとても辛いものだ。いい加減な気持ちでは、この厳しい練習にはついてこれないからね。そして強くなるために、最も大切なことは何か。それは、「オレは絶対にチャンピオンになる。なってみせる」という強い思いがなければいけないということだ。それがなければ厳しい練習や減量には絶対に耐えられないだろう。頑張ろう。自分を信じて”
ボクシングの生徒に限らず私たちが生きていくうえで何かに向かって進もうとする時がある。そのような時には、何よりも強い思いが目標を達成させるためには必要である。自分を信じて進もう。思いは必ず届くものだから、と考えるようにしたい。
(県立会津工業高等学校教諭)
自然と子供に学ぶ
丹野重子
ここ数年低学年を担任し、生活科の学習で、野外活動に出かける機会が多い。自然豊かな学校環境のため、子供たちが自然と触れ合うすばらしい姿と、体験不足から頼りない現代っ子の姿との両面を見ることができた。後者の姿を見るとき、今後どのように教え導いていくべきか、立ち止まってしまう。
初夏のある日、小動物の様子や自然の変化を観察しようと外に出かけた。ある女の子が、「この堀っこの石は、黒い石ばかりで、じいちゃんと行く山の沢に似てる。サワガニがいるよ」とつぶやくと、石を揺らさないように入って、そっと石を裏返した。いた、いた。